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ナンパとクレア

 下駄箱の前で『質問会』は行われていた。

「で? その子は誰なの?」

 綾瀬がぞっとするような声でそう言う。

 何か一つ履き違えれば殺されそうな勢いを感じる。

「あん? 大人の階段を登って卑猥な会談してたとか言ってみろ? 地獄のローリングスプラッシャーをかけてやるからな」

「遊星-九十五点。でもその子誰なの?」

 綾瀬の後ろに隠れて物申す遊星にクリス。

「鞍馬にクリスに綾瀬。聞いて驚くなコイツは天……」

「うわい!?」

 壱の後ろに立っていたクレアは壱に物凄い勢いで抱きついてきた。

 と、同時に口に手を当てられ耳元で囁かれる。

「私が天司だということは秘密です」

「何でだよ?」

 と囁き返す壱。

 柔らかさと甘い匂いに頬を緩めたくなるが生憎と友人たちの前だ(周りに誰が居なくとも同じだったろうが)。

 しっかり頬を固定するが、それがまた奇妙な引き攣りを引き起こしていることに本人は気づかない。

「私が天司だということがバレたらこの世界のパパラッチという人たちに追い掛け回されるという噂を耳にします」

「いや日本にパパラッチは居ねえから大丈夫……っつか天司でセレブならまだしもお前セレブじゃないし……」

「え? じゃあ私の正体をばらしちゃっていいんですか?」

「いやそれはNOだ。マスコミや好奇心旺盛な奴らに祭り上げられるのがオチだからな」

「じゃあ、やっぱり秘密に? うう……秘密になるとなぜこんなに言いたくなるんでしょう?」

 なるほど、通りで周りに警戒しつつ天司であることを教えてくれた訳だ。

「お前には秘密の相談は絶対にしねえ。今決めた……つか羽は?」

「ええ? 何で相談してくれないんですか?」

「そこに食いつくなよ……。羽はどこ行った?」

「翼は服に収納可能ですっ!」

 次の瞬間、グイッと腕を引かれ、クレアから引き剥がされた。

「あん? 何だよ一体……」

 そこには、なぜか泣きそうになっている綾瀬の姿があった。

 どういたんだろう? と首を傾げる。

「ちゃんと言って。壱とその女の子がアレヤコレでアアであっても私はもう全てを受け入れる準備が……ってやっぱり駄目えええ!!」

 ゴガン! 壱の後頭部に物凄い綺麗なハイキックが見舞われた。

「いっ!? 壱さん!?」

「うわー痛そう……」

「俺もテメエに毎回毎回殴られてっけどな……ってあれ? 倉敷? こ、呼吸してねえ!?」

「わ、私のせいだああああああ!?」

「私との決戦の日まで生きてるのかしら?」

 ブラックアウトする意識の中でそんな様々な声が聞こえた。

(防御機能……働いてよ……)


ЖЖЖЖЖЖ


 起きたら既に昼でした。

 壁に掛かっている時計は既に十二時を指し示している。

 思考に靄が掛かっているようにぼんやりする。

「あ! 壱さんようやく起きたんですか」

 嬉しそうにそう言うクレアは体調の程を聞いてくる。

「ああ。まあ大丈夫だ」

 一つ頷き、綾瀬の一撃で地に伏したことを思い出した。

 気絶なんて産まれて初めての体験だが、後頭部が石でごつんごつん殴られているみたいということ以外は昼寝と変わらない。

 まあ、それが最悪の後遺症なんだが、それは置いておく。

 周りを見渡し、現状を確認する。

 寝かされていたのは勿論ベッドで、周りにはカーテンがあった。

 更には湿布のみたいな薬品の匂い。

 保健室だ。

 もう一眠りしたいが、もうお昼だし腹が減っている。

 壱はクレアの方に向き直り言った。

「まあ、十二時だし昼飯でも買いに行くか? 五百円までなら食堂で奢ってやる」

 ついでに綾瀬には激辛ソーセージでも食わせてやろう、と決意してベッドから起き上がる。

「はい」

 天使のような笑みを浮かべてクレアは言った。

 まあ、彼女は天司なんだけれど。


ЖЖЖЖЖ


 あ、と食堂でフレアが独りで食事を採っているところを見て保健室でのことを思い出す。

 そしてクレアは自分のことを起きるまで待っていたのだという事実を、発掘した。

 お礼を言うべきだろうか?

 そう思うが時期が逸した気がする。

 だけど、お礼を言わないとやっぱり駄目な気もするし……、と壱は優柔不断に迷い続ける。

 そこでクレアが居ないことに気づいた。

 周りをきょろきょろと見渡し、

「あれ? 何で君、制服じゃないの?」

「昼飯食べながらでも教えてよ」

「ええ、と……私は壱さんと食べるので……」

 ナンパされていた。

 容姿がいいので制服でないとああいう奴らの対象にされてしまうらしかった。

 断りの文句に自分の名前が入ったのが何となく嬉しい。

「ふーん。じゃあいいや。コレ俺のメルアド。気が向いたら連絡してよ」

「オイ!? お前用意周到すぎるだろ! コイツは本当は海田に次ぐ軟派野朗だから連絡はしないほうがいいよ、って首が捻じ切れるうううううううう!?」

「余計なことベラベラ喋ってんじゃねええええええ!!」

 仲良い二人(片方はヘッドロックされている)である。

 クレアはそんな二人を無視して早く早く、とカウンター前で手を振っている。

 クレアの元まで駆け足で向かうと、軟派二人はそのままの体勢でテーブルへ向かっていく。

 クレアはおばちゃんにところてん(何であるんだろう?)、クリームパン、カレー、緑茶を頼む。

「そんなに食えんのかよ」

 言いながらちらり、とフレアを見る。

 フレアは独りで白の縦長テーブルにつき黙々とカレーパンを放り込んでいた。

 壱はそれを気にしながらもホワイトデニッシュチョコを五個とオレンジジュースを頼む。

 パンにチョコレートが入っているのだが、チョコレートもパンも美味しく、昨日で虜になった……というより昔壱が大好きだった菓子パンをパクってんだろ? と思うくらい似ているのだった。

 だってこのパンを創っている会社が『ヤマサキ』だし。もろパクりだし。

 カウンターから出てきたところてんとクリームパン、カレー、緑茶をクレアが試行錯誤しつつ腕の中へ積み上げていく。

 壱は頑張るクレアの姿をもう少し見ていたかったが、いつの間にか後もつかえているのでカレーを持ってやる。

「ありがとう壱さん」

 そう言ってさっさと歩き出すクレア。

「オイ。どこ行くんだよ?」

 迷いない足取りに疑問を覚えクレアに言う。

「あの人のところに行くんでしょう?」

 クレアはフレアを視線で指し示した。

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