缶ジュース
自販機でレモン水とアップルジュースを買う。
「うはーあ」
帰る、のか……壱はため息に比例して気が重くなるのを感じる。
爽やかに笑ってみる。
自販機に微妙に映る自分の顔はどう見てもにやっ、だ。
おまけに顔には心の内が現れているかのようにどんよりとしている。
更に落ち込む。
「会わせる顔がねえ……」
そもそも笑顔ってどうやって作ってたっけ?
いや、そもそも作ろうとしていたっけ?
笑顔が自然と滲み出ていなかったか?
「くそっ」
壱の笑顔はクレアに引き出されていたのだ。
もしくは、クレアの記憶が亡くなったと同時に壱の笑顔も亡くなったのか。
「……帰る、か」
二つの缶ジュースを持って帰る。
クレアがレモン水を飲んで、笑顔になる、そんな希望に満ちた想像をする。
自分でも気づかぬ内に笑みがこぼれ落ちた。
もしかしたら、二人して笑えるんじゃないかと勝手に思う。
◆◆◆◆◆◆◆
「あ……?」
家に帰ってこぼれ落ちたのはそんな言葉にもならない声だった。
希望に縋り付くことすら出来ないまま、クレアは誰かに連れ去られた。
メモ用紙が机に置いてある。
「何で、だよ……」
ぎり、と拳を思い切り握り締めた。
「何でまたアイツが狙われなきゃなんねえんだ!!」
鋭い声だけが室内を蹂躙し、むなしく散った。
メモ用紙を掴み、シッカリと要件を見る。
『すぐに指定の場所まで来い。お前のヒロインはコチラで預かっている』
何が、ヒロインだ?
怒りで身体が震える。
「殺してやる」
記憶を失って、俺みたいな男とずっと暮らして幸せなことなんて一つもない女の子を連れ去るなんて許せることじゃない。
「殺してやる!!!」
殺意に満ちた声で大きく吠える。
ズタズタにして、クレアに謝られせ、ぶっ飛ばす。
一歩、一歩、怒りに震える身体で歩く。
メモ用紙がその重圧で消滅した。
いや、メモ用紙が壱の周りを揺らめく粒子によって原子レベルにまで分解されたのだ。
壱の怒りはそれほどまでに高く、力は更に高まる。
瞬間、壱の姿はその部屋から消えた。




