夜陰の強襲
頬から雫が流れ落ちた。
壱が私を拒絶して、家を出た。
やっぱり重荷になっていたのだ。
自分を引き取ったのは私が好きなのではなく、昔の私が好きなだけ。
だから、義理で引き取られただけなのだ。
そう思うと、申し訳なさと悲しさで心が潰れそうになる。
いつも笑顔が引き攣っているのが分かっていた。
自分も、壱さんも。
喉が引き攣り、目から涙が勝手にこぼれ落ちる。
「いつまで泣いてんだ?」
「壱、さん……?」
違う声なのはわかっていたけど、そう訊いてしまった。
もしかして、壱さんが帰ってきて「一緒に行こう」と言ってくれるんじゃないかと。
クレアは恐る恐る、顔を上げる。
危機感も何もかもかなぐり捨てて。
壱なのではないかと、それだけを思って顔を上げる。
「あ、」
違うかった。
当たり前だ。
声が違うのだから。
青年で、背は壱さんより十センチほど上だろうか。
その男にはぞくりとするほどのピリピリとした威圧感があった。
「……怖がらねえとは見上げた根性だ」
「……出て行って」
どこから来て、何の目的で来たかなんてどうでもいい。
ただ、出ていってくれればそれでよかった。
「駄目だ。お前のヒーローさんを招待するためにはお前が必要なんだよな」
その言葉を聞いた瞬間、足に力を込め、掌を床に押しつけ、転がり、立ち上がった。
机にあった本を持ち、臨戦態勢を取る。
「くっくっくお前の戦闘力で俺に勝てるとでも思ってんのか?」
「壱さんになりするつもり?」
精一杯睨みつけ、低く言うクレアだったが、目の前の青年は笑った。
「へえ……やっぱりアホだな。海田も、倉敷の女も。何で叶わぬ恋に酔いしれれるのかねえ」
心に刃物を突き立てられたようだった。
一瞬、クレアの世界が暗転する。
「……ったくヒロイン勢は雑魚ばっかりだな」
クレアが能力を発動させる間もなく、男はクレアを気絶させてしまった。