表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/116

一ヶ月後

「……」

 倉敷壱は究極的に病んでいた。

 何かもう何もかもぶち壊したい。

 いっそのこと自殺でも決行したい。

(何で護れなかったんだよ……俺がもっと強ければ。アイツが記憶が失う事なんて……)

 そして、護れなかった少女は今も壱の部屋に居る。

 だって、クレアはどこにも行けないのだから。

 甲斐性も、力もない壱の元を離れるという選択肢すら存在しない。

 守ってもらう人も、守ってあげたい人も、今のクレアには存在しない。

 消去法で。

 選択肢が一つしかない状況で。

 壱はクレアを縛っているのだ。

「……ッ」

 その空気を吐き出すような声に遊星たちが反応した。

「マジで壱やばくない?」

 とクリスが心配そうに言う。

「そりゃあ、お前……あんな大切にしてた女の子の記憶が抹消されたんたぞ? 思い出も共有されてないだろうしな」

 遊星は後頭部を掻きながら冷静に言う。

 そして、二人の恋する乙女をチラリと見る。

 フレアと辻綾瀬だ。

「……」

「……」

 激しく落ち込んでいる。

 目が死んでいる上に、教科書すら机にない。

 知り合いが記憶を失った悲しみと、想い人が落ち込んでいるせいと、想い人が知り合いをどれだけ思っているかまざまざと見せつけられている為だろう。

 何という三重苦。

「……にしても、もう一ヶ月だぜ? あれから……」

「でもようやく壱もご飯食べてくれるようになったし。「ん」くらいは話せるようになったしさよくなったんじゃない?」

「……まあ、確かに」


жжжжжжж


 理事長室で沙耶がケータイ片手に喋っていた。

「にしても、アレね。皆が皆ヒーローになれる訳じゃないんだね」

 最終的に助けたのは壱じゃない。

『当たり前だろう』

 あくまで冷静に電話の主は言う。

「でも、海田くんとかカックいいくらいにヒーローじゃない?」

 海田は護るべき者が居たとき、少し上の実力者であろうが、最後に勝っていた。

 まるで、予定調和のように。

『そういう奴も居る。実力云々の話じゃなくてな。それに、そもそもヒロインの重さが違う。アイツを護るっていうのは世界のヒーローするより重い』

 例えば、戦争の発端になった赤ん坊を護るよりも難しい、電話の主はそう言う。

 なら、あそこまで戦えた壱は主人公ではない(、、、、、、、)にしても異常な程の実力者なのか。

「ふーん。じゃあやっぱりこの事は予定通り?」

「……どっちでもよかった。生きてさえいればな。何もかもが俺の手中にあるわけじゃない。俺が決めているのはあくまでも只のルートだ。右側通行だとか交通手段までは決めてない。その辺りはアイツらの自由意思に任せる」

 大雑把に決めて、何か不都合が起きればその都度対処していく。

 それがこの人の計画の立て方なのだ。

 綿密に組み込まれた計画ほど脆いものはない。

 何か一つ――砂粒ほどの小さなイレギュラーに翻弄されるのだから。

 根幹は綿密に、それ以外は大雑把に。

 コレが計画を立てる上での大事なことなのだ。

 沙耶は一度深く息をしてから言った。

「で、何時になったらアナタの計画は実行されるわけ?」

 もう一ヶ月も待っているのに何も動き出さない。

 イライラもしてくる。

 そもそも計画の末尾さえも知らないのだ。

「アイツらが俺が決めた地点までたどり着いたらだ」

「……たどり着くの?」

「着く。俺は信じてる」

 随分と歪んだ信頼ね、と思いながらつーという電子音で電話が切れたことを知った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ