天司と倉敷壱
「お前。これからどうすんの?」
壱の問いかけにクレアは笑みを浮かべて言った。
「はい。悪魔退治に倉敷壱さんという人に手伝ってもらうので学校に」
「んは?」
思わず可笑しな声が漏れた。
何て言いやがったコイツ?
「だから倉敷壱さんに……ってあー」
何かに気づいた様子の天司さん。
「もしかして、壱さん?」
ここで嘘を吐けばよかったのだ。
なのに壱の口は正直に動いた。
「エエソウデスヨ」
「え? あなたが壱さんなんですか」
よかったあ、とクレアは安堵の声を漏らす。
「何が良かったんだよちくしょう……」
泣きそうな声で壱は呟く。
(何で俺にこうも災難が続くんだ?)
「誰かの陰謀を感じざるを得ない」
壱の言葉を聴いていないのかクレアは鼻歌でも歌いそうな調子で、
「私、人見知りですぐに仲良くなった壱さんでよかったです」
「つか俺は協力する気なんてねえぞ。そういうのは海田京に頼め。アイツは昨今のネット小説の主人公っぽいから押しに弱いはずだ」
と、ネット小説を読み漁るのが趣味の壱が言う。
いや、海田みたいな主人公は嫌いなのだけれども(噂を聞く限り)。
「でも大天使様は倉敷壱さんじゃにといけないって言ってましたし……」
何で見知らぬ大天使が俺のことを買い被ってんだ? と壱は懐疑心で目を細める。
何か、あるんじゃないだろうか?
銀行強盗がなぜ壱を発砲したのかもまだ分かってはいない。
銀行強盗に大天使――繋がりはなさそうだが。
「私も壱さんが良いですっ」
そう言ってクレアはぺこりと頭を下げる。
うっと、壱の鋼――に見せかけた発砲スチロールのような決意は容易く崩壊しそうになる。
懸命に防空壕を作ろうとするがそんな時間はないし、余裕もない。
「あーいやーそのー」
間延びした無意味な返事をしつつ考える。
壱の予定は盛り沢山だ。
勉強もしなくてはいけないし……あれ?
「勉強しかやることなくね?」
俺の青春って一体……そうガッカリするがまあこれが普通の高校生の実態というものだろう。
鞍馬と綾瀬の性格から推察すると遊びに誘ってくる可能性もあるが、断ることも可能だし……そもそも遊びに行かずに高校三年間を終わる可能性もある。
クレアは壱の発言に希望を感じ取ったのか嬉しそうに言った。
「じゃあいいんですか?」
「まあ……危なくなければ」
渋々と頷く壱。
仕方ない。
悪魔が居るとなればやっぱり危ないし、クレアが怪我を負う可能性だってある。
無論、鞍馬もクリスも綾瀬も、被害を被る可能性があるのだ。
「危ないときは私が護りますから!」
「すげー気合だなオイ」
大天使様の思惑も気になるが、コンビ結成である。