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 雨宮時雨は翼を振るった。

 もはや翼が『ある』ことが正常だと感じている時雨には翼が生えているという事実を疑問に思う余地はない。

 翼は壱の脇腹に振るわれ――完全に停止した。

 時雨は目の前の唐突に変異した――右手で翼を掴み取っている壱を見る。

 純白の翼が背中から生えていた。

 純白の翼は幅も長さも随時変わり、変異する。

 五メートルから、十メートルへ。二メートルから百メートルへ。

 幾何学的な翼から蝶のような翼へ。蝶のような翼から左右に三対ある翼へ。

 時雨は唐突に自分の内側から震えを感じた。

 まるで、自分と同じ異形の翼――!

「は、はははははははははははは!!!」

「……クレアを探さなきゃなんねんだ。どっか行けよ」

 壱は厚み数センチの翼を掴み取り、捻った。

 直後。

「は……ッッ!??」

 視界が急展開し、ぶれて真っ黒に塗りつぶされた。

 次の瞬間、見たのは空だった。

「面倒くせえし、ここら一帯ぶっ飛ばして捜すか」

 壱は時雨のことなど気にもとめず、背中に生えている翼を振るおうとする。

 瞬間、時雨の翼が勝手に壱の背後へ急襲した。

 上下左右からの無慈悲な攻撃。

「うぜえ!」

 壱の純白の翼が変異を繰り返しながら、翼の先端部分へと自分の先端部分をぶつけ、翼を破壊した。

 翼は空と混じり――唐突に翼へとその姿を取り戻した。

「何だ……?」

 壱の呆然とした声を合図にするかのように時雨は走った。

「うあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 地面が掘り起こされ、クレーターが出来上がる。地面はまるで津波のように空へと舞い上がった。

「くそっ、様子がおかしいぞコイツ!?」

 壱は言いながら、振るった拳を腕で受け止める。

 時雨は壱の顔面めがけて蹴りを放ち、更に縮小した翼を壱に向けて、叩きつけた。

 衝撃は焼け野原のようになったここら一帯を更に吹き飛ばす。

 地面は抉れ、空気は破裂し雲が割れた。

 壱は蹴りを顔面で受け止め、翼を掴み取りながら見た。

 余波でも不自然に傷のついていない地面がある。

「あそこか……!!」

「無駄だ無駄! テメエはアイツを助けらんねんだよ!!」

 声にエコーがかかったかのように響く。

 自分が相手よりも強いというのが、一種の精神安定剤になったのか壱は冷静に考える。

「お前も、アイツみたいな奴と会ったのか?」

 聞いた瞬間、

『記憶の方は死んでるかもなあ』

 時雨のセリフが唐突に蘇った。

「記憶が死ぬってどういうことだよ?」

「カ八ッ! 今頃思い出したのか!?」

 額を押さえて、演技的に、しかし本当に馬鹿にしたように笑う。

「テメエのお姫様は記憶が消されてんだよォ! かははっははははははははははははは!!!」

 狂ったかのように笑う時雨。

 壱は絶望に頭の中が真っ白になる。

(消える……? 記憶が?)

「何でだよ? 俺と過ごした毎日も消えんのかよ?」

 声が震え、身体の奥底から恐怖とも悲しみともつかぬものが湧き上がった。

 そんなのは絶対に嫌だった。


 自分の記憶だけあって、クレアは無関心で壱を見つめる。


 そんな想像だけで心が崩壊しそうになる。

 だって。なぜなら、あと少しで天司が迎えに来るんだから。

 クレアとはもう一生会えないかもしれないのだから。

 思い出があるから、離れても大丈夫なんて綺麗事すら吐けない。

 自分のことを忘れ去られたまま、天界に帰ってしまうなんて。

 それだけで、そんなことだけで壱は気が狂いそうになってしまう。

 他にもっと心配することがあるはずなのに、思い浮かばない。

 あの笑顔が向けられないことだけ考えると、他のことなんて頭にさえ浮かんでこない。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 翼が全力で振るわれる。

 一撃で倒して、クレアを助け出す。

 遅くなったけど、だけど無傷で助け出せる可能性は〇じゃない。

 心の底からは信じれない『無傷論』

 しかし、信じなければ力の全てが奪われるような気がした。

 何も助け出せない絶望的な展開だけは避けたかった。

「テメエもお前も死にやがれええええええええええええええええええ!!!」

「クレアを助けだあああああああああああああああああすッ!!」

 変異する純白の翼と空のような蒼の翼が激突する。

 翼が絡み合い、互いの翼を弾き飛ばし、両者の拳が激突し合う。

 最初の戦いから、五〇倍は激しい戦いだ。

 両者は翼を使い、空へとその戦場を移す。

「うおああああああああああああああああああ!!!」

 壱の蹴りが頬を掠め、時雨の翼が壱の拳を傷つける。

 壱は翼を振るい、更に高く飛びながら掌から魔力を飛ばし、牽制した。

 時雨の翼は魔力を消し去り、更に羽根を無数に飛ばす。

「堕ちろ! 堕ちろ!! 堕ちろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 壱は叫び、全力で翼を叩き落とす。

 羽根は全て押しつぶし、時雨へと向かう。

「くそがああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 時雨も真下から翼を放つ。

 両者の翼は空中で激突し、閃光が辺りを満たした。

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