記憶
「アイツ……やりやがった」
海田が呆然と呟く。
「え!? 勝ったの!?」
その呟きに呼応し、海田の肩を揺さぶる綾瀬。
「ああ、多分、つか離してくれ……!」
早瀬は歯噛みする。
主人公が完全に京から壱に取って代わった気がしたのだ。
早瀬の視界がブレ、肩に重圧がかかった。
綾瀬が早瀬に抱きかかったのだ。
「やったあああああああああああ!!」
言いながらも、綾瀬は昔のことを思い出していた。
小さい頃――小学生だった頃、不良というには幼い苛めっ子に苛められていた。
幼いからこそ加減を知らない苛めっ子たちはついに性的な悪戯まで始めようとしていた。
制服を脱がされ、半裸になった瞬間、そこでヒーローのように現れたのが幼馴染の壱だ。
そして綾瀬を護る為に五人相手に一方的にボコボコにされ、倒れた。
そして直後、立ち上がりあの粒子を纏い綾瀬を抱いて――逃げた。
『テメエら先生に言ってやるからなー!!』
それから壱は粒子を使える最強の小学生となった。
なったのだが、特にそれ以来使うところは見ていない。
精々遅刻になる時間帯に起きたときに使ったくらいだろうか?
綾瀬の唯一のアドバンテージだった負ける相手に護って貰えた、という状況はクレアにも渡ってしまったのが何気に悔しく、寂しい。
心が狭いと言われようと、そう感じてしまうのだった。
◆◆◆◆◆◆◆
「何て抵抗力なの……?」
恋歌はクレアの記憶の閲覧と共に記憶を削っていく。
記憶の中に『力』があるらしいのだ。
記憶閲覧、消去が難しいのは恐らく、クレアが天使の集合体だからだろう。
「捗っているか?」
大和製鉄の社長――大和が後ろから声をかけてきた。
「ココは危ないよ。上じゃあ激しい争いが起こってるし」
大和は鼻で笑う。
「七大魔術師に勝てる人間が居るとでも?」
しかし、恋歌は歌うように簡単に断言する。
「居るよ。世界は広いんだし」
真上から、マテリアルで作られた頑丈な部屋の天井が崩れ、粉末が雪のように降った。
「な……!?」
大和が驚愕し、歪めた顔のまま声を発する。
「鉄より二〇倍は硬いマテリアルで作った堅牢な部屋に魔術師が何重もの結界を張り巡らせているのに、どういうことだ!?」
「そんな説明してる暇があったら、魔術師連れて逃げ出せば?」
恋歌の口調は冷たい。
「どこまで進んでる?」
大和が詰問するような口調で言う。
「生まれてから百年って所かな? でも男の影一つないし、何か誰からも一歩引かれてるような……」
「ほう、力のせいかな?」
鼻歌でも歌うような調子で真後ろにあったソファに沈む。
「それじゃあ、見つかるまで居させて貰うかな」
恋歌は知らず知らず、盛大な溜息を漏らした。