ヒーロー
「私の名前は海よ。悪魔はどこ!?」
海と名乗る少女はクレアを助けに来たわけではないらしかった。
「あーそこに悪魔化した奴は倒れてるけど……」
時雨は海田と綾瀬を指差す。
「コイツら……いや、違うわね」
海は首を左右に振り、
「その扉の向こうに居そうなのよ。どいてくれない?」
扉の前で佇む時雨に言う。
「通してやりてえのは山々だが……生憎と無理だ」
「なら、無理やりにでも通させてもらうわ。何か、悪い奴っぽいしね」
海は秒速千メートルで駆ける。
海田よりも、格段に弱い。
戦闘力で言えば、千ほどか。
「……」
時雨は歩く速度で、歩を進め、頬に拳を軽く当てる気持ちで振るう。
直後。
拳を受け止められた。
「テメエを倒すのは、この俺だ!!」
海田だった。悪魔化は解けている。
「……」
はあ、と溜息をつき二人同時に蹴り飛ばした。
「ごふっ!?」「な……っ!?」
二人はサッカーボールよろしく飛んでいき、壁にめり込んだ。
「いってええ……」
海田は血が垂れた唇を拭う。
時雨は二人が反応できない速度で進み、海田の顔面を狙い蹴る。
蹴りが弾かれ、数歩後退した。
「すみません遅れました!」
愛利が突如出現し、時雨をねめつける。
時雨は本当に面倒くさそうに息を吐いた。
綾瀬と、早瀬も起きて時雨を睨みつける。
五対一の戦いだ。
もう加減するのも面倒くさい。
「もういいや。お前らは思いっきり気絶させて、日本から吹き飛ばしてやる」
時雨は掌から、不可視の衝撃を放った。
誰にも止められない一撃。
五人は見えない手に押し潰されたかのように、壁にめり込んだ。
「……?」
五人は意味も分からず、衝撃を受け、無意識に死を覚悟した。
「何だよ。あの化け物っぷりは……」
海田は呻く。
意味のわからない攻撃なら散々受けた事がある。
しかし、存在を意識せずに攻撃を受けた事は今日が初めてだった。
「……」
逃げればよかった、純粋にそう思う。
「悪い、お前ら……」
海田の謝罪を聞いて、早瀬は首を振る。
「いや、謝らなくてもいい。京は正しい行いをしただけだ」
綾瀬は瞳を瞑っている。
死を覚悟したのだろうか?
時雨の腕が霞んで見えた。
来る――!
今までの人生がフラッシュバックされ、そして――
「倉敷壱ッッ!!」
今まで出会った中で、一番主人公で、一番強い奴の名前を呼んだ。
皆は『死』が迫っていることさえ、気付かない。
早瀬当たりは粉々に吹き飛ぶかもしれない。
それらをぶち壊してくれるのは、倉敷壱しか居ない。
声が空気を伝う前に、不可視の攻撃が着弾する――
――瞬間。
「よお。待たせたなお前ら」
不可視の衝撃が粉々に砕け散った。




