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makusuuleru

「マクスウェルの悪魔ってとこかしら?」

 綾瀬はそう言い、時雨の周りの空間を凍らせた。

 悪魔憑きになったことにより、ラプラスが完全に進化――空間を把握するだけでなく、空間を掌握できるようになった。

 さっきの無効化の正体は分子結合を外す時雨の技を見破り、分子をもう一度結合してやったのだ。

「やった、か……?」

 海田はそう呟き、悪魔化のまま氷を潰そうと拳を振り上げた。

「ってー。意外に痛かったな……」

 時雨は氷の中で首を回し、関節を鳴らす。海田は瞬時に状況を把握し、拳を振りぬく。

 海田京と辻綾瀬の悪魔化は、似ているようで違う。

 綾瀬の悪魔化は従来通りの悪魔化――悪魔憑きである。

 マイナスの感情と力を欲する気持ちから天使を堕天させ、力を増幅させた。

 よくはないにしても、五年に一度は起こる事例である。

 オリンピックよりも稀少な時点で、この少女の思いの強さはわかると思う。……あと、千夏。

 しかし、海田京の悪魔化はまた違う。

 綾瀬の悪魔化に引き摺られるようにして、悪魔と化した。

 海田の体内に悪魔が潜んでいるのだ。

 時雨は海田の秘密を簡単に看破する。

 海田が振るった拳は氷を砕き、しかし、時雨には何らダメージを与えれなかった。

「悪魔をその身に宿すとはな……流石は元主人公。狭い箱庭で、CIOOZと戦ったり、悪魔憑きと戦ったりしたもんだ」

 時雨の言葉に海田と早瀬が反応する。綾瀬は首を傾げているだけだ。

「な……っ!? なぜそれを知っている!?」

 早瀬が真剣を目の前に突き立て、防御陣を張ったまま叫ぶ。

ちょっと(、、、、)調べたんだよ」

「は……? おい、ふざけんなよテメエ……あんな闇の部分をどうやって……?」

 海田は犬歯をむき出しにして吼える。

「あん? ああ、そうか。お前らはあの程度が、闇の深遠だとか勘違いしてんのか」

 早瀬と海田の心は見えない拳に打たれたようによろめいた。

「あんなもん、表面も表面だ。『ZOOK』だとか、『深遠なる者達』なんかは深遠に深まるために頑張ってるらしいぜ。ああ、あとお前らと絶賛交戦中の『FURIM』な。アイツらお前らを殺して、深遠に交渉するつもりらしいぜ。表面の中じゃあ名の知れた『海田京と愉快な仲間たち』を倒せば、資格が手に入るとでも思ってるんだろうぜ」

 海田の中から溢れ出す、悪魔の力が揺らぐ。

「で、それを踏まえてどうする? 悪魔の力を使えば、本当に危ないし、深遠に浸かって雑魚キャラへと成り下がるかもしんねえぞ? 箱庭の主人公じゃいられねえ。逃げるなら、今だ」

 海田はマイナスの感情に思考を半ば奪われながら、考える。

 今撤退すれば、全員無事に助かるのだろう。

 しかし、クレアは助からない。

 闇の深遠がどうした?

 もう、自分が最強などという自惚れは完全に捨てた。

 自分の魔術のチート性能に過信し、相手に挑んでいた頃の自分じゃない。

 倉敷壱――アイツと会ってから、自分は主人公にはなれないと悟った。

 箱庭の主人公なんざ、もう要らない。

 ヒーローの座は自分で手に入れる。

 アイツを押し退けてでも。

 それに。

 女の子を見捨てるなんて、出来る筈がない。

「う、がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 海田は悪魔の力にその身を落とす。

 それ以外、コイツに勝てる方法がない。

「お前らは逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 しかし。

 深遠へと入る決意をした海田は今や、雑魚キャラ同然だ。

 故に時雨は覚醒ムービーを見て、相手にする必要もない。

 有象無象の敵の感情や、怒り、そしてほんの少しのパワーアップを描写する作品はこの世に存在しない。

 海田、綾瀬、早瀬はゼンマイが切れたカラクリ人形のように、力なく倒れた。

 その時、一人の少女が扉を開けてやってきた。

「おいおい、クレアの奴はどんだけ愛されてんだ?」

 時雨はもう勘弁してくれとでも言うように、額に手を当てた。

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