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天使と天司

 寮から学校までの道程は短い。

 寮を出るとすぐ目の前に林道が見え、それに沿って歩いていけば学園に着くのだった。

 倉敷壱は道程も終盤に差し掛かる所で、大欠伸をする。

 一応勉強しないとやばいよなーと思い、魔術と今日の分の数学の単元――高次方程式の予習をしてきたのだ。

 数学の方は全くわからなかった。

 やはり最初から勉強するのが近道なのか……。

「はあ……こんな優秀な学校に来るとプレッシャーだよなあ」

 ポリポリと後頭部を憂鬱なまま掻き、頭にもの凄い重圧を感じた。

「おごおっ!?」

 倉敷壱の能力――名前は決めてないが何か防御的なアレ――は発動しなかったらしい。

 重みに負け、林道の真ん中で無様に後ろから倒れた。

 後頭部を打ちつけ、脳内がキンキン痛む。

「ううー私はまだ上手く飛べないんでした……」

 壱の間近で女の子の声。

 そして、壱は気づく。

 降って来たのは女の子だと言うことに――。

「マジかよ……」

 放心状態で呟き、そして今の状態を一瞬で再確認する。

 女の子の背中に回された手。

 絡み合った脚。

 その時、女の子は手をつき少しだけ身体を浮かせ、大きな瑠璃色の瞳を閉じたり開いたりする。

 女の子の顔が間近に来た。

 女の子は可愛かった。

 髪は羽毛のように柔らかそうな金色。

 睫毛は長くぱっちりしている。

 外国人かと思ったが、骨格や絡み合った脚の肌のきめ細かさや柔らかさから言えば身体の華奢な日本人だ。

 それとも外国人と言えば骨格が太く、肌が粗いイメージがあるのだがそれは幻想だったのだろうか?

 女の子の柔らかそうな桜の蕾みたいな小さな唇から漏れ出る吐息が壱の鼻腔をくすぐる。

 壱はもう脱出不可能。

 脳幹が混乱をきたしたのか一ミリも動けない。

 再確認に要した時間は恐らく一秒にも満たないだろう。

 女の子は壱を見て、一瞬で飛びのいた。

「わあ!? す、すみません!」

 ペコペコ壱に謝る女の子。

 服装は純白のドレスのような服装だった。

 しかし、下がスカートのようにヒラヒラで、凄く歩きにくそうだ。

「まあいいけどさ」

 ようやく呪縛から解けた壱は立ち上がりそう言う。

「んで、何で俺の上に落ちてきたんだよ?」

 女の子は何かを警戒するようにきょろきょろ辺りを見回した。

 右、左、右、左。

 まるでスパイ映画の銃撃戦の一部を切り取ったような動き方だった。

「実はですね……」

 女の子は少し興奮気味に、秘密のお話を焦らす子供のように一旦間を置いてから、

「私は天司なんです! 大天使様の密命で悪魔を退治しにきたんです!」

 あまりの告白に壱は少し驚いてから半目で言う。

「いや、信じらんない」

 壱の言葉に女の子は不満そうに、

「確かに大天使様は人間界との接触を絶つように言いましたけど……」

「だろ? お前、もしかして堕天司か?」

 昨日見た教科書では(教科書を読む前でも知っていた一般教養だが)大天使はあの戦争以来人間界との接触を絶つようにしたらしい。

 そして、天使が感情により、汚染され――堕天した存在を主に堕天使と言う。

 天司は魔術の元となる『天使』の集合体だ。

 因みに堕天使が集合すると『堕天司』である。

 なぜ天司と書くかと言うと、天使を発見した後に人間が理論の上で作り上げた存在だったからだ。

「『天使』ってつけちゃってるしなーんじゃあ天使を司る者的な感じで天司でお願いします」

 まあこんな大方こんな軽いノリで名づけられたのだろう。

 その数年後に出てきた天司達はがっかりしただろうな、と壱は教科書を見ながら思ったものだ。

「違います! 私はその悪魔を成敗しに来た――言わば正義の使者なのです!」

「……悪魔? 堕天した天司のことだよな?」

「ちょっと違います。悪魔は神様を敵に回したり人間に危害を加えたりする存在ですけど、堕天司は自由気ままに生きるだけの無害な存在ですから」

「ふーん」

 壱は目線を左へ右へ、意味も無くやってから言う。

「学校あるから俺行くわ」

 そう言って天司の横を通る。

 がしっと、手を握られた。

「あの、天司さん?」

「信用してませんよね? それと私の名前はクレアと言います」

 柔らかく温かい手にちょっとドキドキする心を抑えつつ、言う。

「まあ、信用は難しいけど――って羽?」

 女の子――クレアの背中から純白の小さな翼が見えた。

 翼は天司の象徴だ。

「マジで、天司?」

 壱の呆然とした言葉にぱあっと顔を輝かせるクレア。

「ようやく信じてくれましたか!?」

「いやいや魔術を使えば羽くらい……」

 女の子は少し呆れたように、

「その頑なに信じないのは何でなんですか?」

「いや、だって……天司なんて……」

 見たことないし、と壱。

 クレアはふむ、と一つ頷く。

「でしたら私能力の内の一つ――天司としての能力――『同調』をお見せしましょう!」

 そう言って何の承諾もなく修道女のように手を組むクレア。

 と。

 周りの天使が集まり、姿を現した。

 純白の光がクレアを包み込み、神々しい雰囲気が漂う。

 何となく、馬鹿っぽかった女の子だったのに……。

「これは魔術、じゃねえ……」

 天使をそのまま操る技術なんて聞いた事も無い。

 もしかしたらあるかもしれないが、ここまでして壱に嘘を吐く意味なんてない。

 故に、

「ホント、なのか……」

「ようやく信じてくれたんですね!?」


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