最終決戦(仮)
クレアは壱のことを一心不乱に祈っていた。
雨宮時雨はただ、無言でクレアの前を歩く。
クレアの決意を、壱への好意をどういう意味にしろ信じていたのだ。
自動ドアを潜り、無人の室内を歩く。
シン、とした静寂に靴音が紛れ込む。
「ココには誰も居ない。今からお前を連れて、極秘の実験をするからだ」
エレベーターを待ちながら、時雨はそう言う。
クレアは特に返事も返さず、瞳を瞑る。
ただ、神様へと祈る。
大天使様の助けを信じて、ただ、壱の為に祈った。
それが雨宮時雨を苛立たせる。
昔、あの少女もこういう気持ちだったのかと思わされる――。
あの少年――倉敷壱とクレアは全く同じだった。
「天界ってのはどんな所だ?」
「……」
「無視かよ……」
突如、後ろに何かが現れた。
それは、黒い影のような物を伸ばし、クレアを連れ去ろうとする。
しかし。
時雨にはソレは止まって見えた。
片手で軽く振り払う。
ただ、それだけの所作で影は引き千切れ、後ろに現れた人物――愛利――は吹き飛んだ。
「……ッ!?」
更に時雨はそのまま片手で空気を切り裂いた。
腕力ではなく、魔術を使う。
クレアの瞼がほんの少し持ち上がるのを尻目に見る。
愛利が現れてからおよそ、一ミリ秒というところだ。
裂けた空気が衝撃波へと変わり、波状に圧力を掛ける。
倉敷壱戦で愛利の魔術の限界は知れた。
防御膜を裂き、身体全体に思い衝撃が掛かるはずだ。
時雨の読みどおり、衝撃波は愛利を襲い、青色に輝く防御膜を震わし、破壊した。
「なっ!?」
信じられないという顔をしたまま、衝撃波を受け、未だ宙に浮いている愛利を更に吹き飛ばす結果となった。
クレアの瞳が完全に開く。
「第一式――」
――幕、と心の中で無意識に唱えてしまう。
愛利を除いた周りの景色を映し出す薄い幕が、クレアの周りを包み込む。
幼い女の子に世界の辛辣さを、邪悪さを見せない為の幕。
(俺が最初に習得した初めての魔術――)
七大魔術師の一人――愛利はいとも容易く時雨に敗れ去った。