再戦闘
「壱が……?」
綾瀬の声が病室に重たく響く。
魔術医師が三人がかりで壱の身体を休みなく癒している最中らしい。
全身火傷など普通は死ぬ怪我をしておきながら、この世に止まっているのは、能力の異常性からか。
「アイツを最後まで守ろうとして、ああなった」
海田が病室のベンチで重く息を吐く。
空気は重く、淀んでいる。
神風たち壱のハーレム除名要員たちは顔を伏せ、泣き腫らしていた。
遊星やクリス、フレアも病院へと駆け込んでいた。
理事長からの連絡で事件を知ったのだ。
廊下で顔を伏せ、唇を引き結んでいる女性はふっ、と消えた。
「……」
その風景を見て尚、綾瀬たちはただ、呆然としていた。
あの日から壱は凄まじい力を身につけた。
クラスの秀才を、Sクラスの人間を軽く圧倒して、学園最強の男になったのにそこまでボロボロになるのだろうか?
そこまで、あの女の子が大事なのだろうか?
病室のドアからは異様なほどの静寂が漂ってくる。
「でも、死なないんだよ、ね……?」
喉が異様に乾き、縋るように問う。
「普通は死ぬからな。魔術医師と壱の力を信じるしかないな」
瞳を瞑って立っている木村早瀬が淡々と口にする。
普通は死ぬ、その言葉に涙が勝手に流れ出た。
◆◆◆◆◆◆◆
「くそくそ! 私が強ければ! 補助なんてしてるから――!!」
愛利は瞬間移動魔術を使い、空に現れた。
警察は使えない。
天使なんて法の外もいいところだし、そもそも大和製鉄など相手にする筈がない。
大和製鉄は今の日本を一手に支える大会社だ。
そんな会社と天使一人を賭けて戦闘出来るほど、正義感はない。
愛利は自分の正義とあの少年のために戦う。
「待っていなさい! 雨宮時雨!!」
恐らくは大和製鉄本会社に居る筈だ。
愛利は、空中でもう一度掻き消えた。