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自己犠牲

 クレアの叫び声で空間がシン、と静まり返った。

「何だよ。もう降参か……」

 時雨は面白くなさそうにクレアを見る。

 そして、愛利の魔術を突き抜けてひび割れた壁の前で、倒れている壱を見て嘆息した。

「まあ、コレ以上するのもな面倒だな。いいぜお前の望みを叶えてやる」

 壁にもたれかかるように気絶している海田には目もくれない。

 クレアはあからさまに安堵の表情を浮かべる。

 この中の誰も、もう傷つけられないと分かったからだろう。

「……」

 時雨はもう一度嘆息する。

「今この部屋に居る人間を助けたところで、兵器に変わるってのに何嬉しそうに笑ってんだよ」

「大天使様が助けてくれます」

 クレアの毅然とした声に時雨は無感情に言う。

「その大天使様公認だぜ? この計画は」

「え……? 大天使様が……?」

 クレアの呆然とした声。おそらく真偽の程を測っているのだ。

「まあつっても大和――」

 時雨の声は途中で遮られた。

 原因は壱の背に積もっていた小さなコンクリートが落ちた音。

 振り向く。

 壱は焦点の合っていない目で、しかしどこまでも敵意に満ちた瞳で時雨を見る。

 時雨は思わず、笑んだ。

「七大魔術師になって二度目の誤算だな……」

 壱は肩をゆっくりと上げ下げし、酸素を取り込む。

 さながら、上空へと浮かぼうとする風船のように。

「今、何つった? クレアが、兵器……?」

 血で赤く染め上げられた唇を芋虫のように動かしながら、訊いた。

 時雨は頷く。

「兵器になるんだよ。言ったろ? コイツの中には莫大な力が眠ってるってよ」

 瞬間。

 壱がぶれて、消えた。

 速度があり得ないほどに上がっている。

(コレがアイツの潜在能力の本領――?)

 直後、うなじの辺りがビリビリと震えた。

 危険を知らせるシグナル。

 七大魔術師である時雨に危険を知らせるほどの『力』がすぐそこに迫っている――!

「おおおおおおッ!!?」

 力のある方向へ――真後ろへ――裏拳を放つ。

 推測はほんの少しズレ、二の腕に頭が当たった。

 ぞくり、魔術によって強化された『本能』が脊髄を伝い、全身へ危険信号を送る。

 無意識に身体が固まった。

 存在確率を使うという意識が一瞬、飛んでいた。

 背に、拳が突き刺さり身体が前方へ押し出される前に更に一撃。

「ご、あ……ッ!?」

 三撃。五撃六撃と攻撃が続いていく。

 存在確率を使い、身体全体の分子結合を失くす。

 次の瞬間、拳が背を突き抜け、腹から飛び出した。

 後ろから迫り来る衝撃に歯を食い縛り耐えながら、後ろへと身体を向ける。

 衝撃を振り払った。

 壱が宙を跳ね、遠心力を利用した蹴りを首へと放つ。

「おせえってんだよ!」

 時雨は蹴りを拳で跳ね除け、吼えた。

 その時、壱の全てが手に取るように分かってしまう。

 七大魔術師同士の戦いでも起こる事のない奇跡の打ち合い。

 天使と天使が互いに交じり合い、その人のPS(歪んだ思考)に直接働きかける手合い。

 ソレは、壱の謎の力が呼んだ奇跡なのか――それとも時雨と壱の力が拮抗し、天使がリンクした結果なのか。

 ともあれ、壱にも時雨の全ての情報が行き渡った。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 壱の咆哮に釣られるように拳に力を載せた一撃を放つ。

 壱はもう、限界を突破している。

 逃げ回っただけで勝てるが、時雨のプライドが許さなかった。

 壱の拳と時雨の拳がぶつかり合う。

 無音の一瞬。

 次の瞬間、時雨の拳が壱の拳を滑るように走った。

 壱の右肩に拳が深く入る。

 今までの衝撃波が部屋を駆け巡るが、愛利の空間制御能力と液体魔術のお陰で崩壊は免れた。

 人が倒れる音が愛利の魔術で吸収される。

 内部への防御を全て攻撃へと転化した壱は、その代償として全身が焼け焦げ服が分子単位で無くなり、倒れた。

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