速度
壱の声は気分というか、感覚で読んでください。
全部後から聞こえるのが書いてて不自然なので。
クレアは息を呑んだ。
今この瞬間、壱が命を賭けて助けてくれている。
一瞬、そのことに幸福を感じる。
だけどそれ以上に絶望感を味わっていた。
絶対に勝てない。
壱は蹴られて血だらけの唇を拭い、敵を睨みつけていた。
「おい。お前らさっさと逃げろよ。逃げねえとボコボコにされるぞ」
けほっ、と咳き込む。
直後。
二人は掻き消え、そして壱はクレアの前へ、時雨は愛利の元へ現れた。
海田は何か信じられない物でも見るような目で時雨を見やる。
愛利は歯を食い縛り、青白いガスのようなものを身体中から流していた。
それが、音と余波を潰しているのだろうと予測できる。
「逃げるぞ。お前ら」
海田はポツリと呟く。
「私もですか?」
クレアの問いに海田は頷く。
「当たり前だろうが。俺ならまだしもお前らがこんな連中の戦いに生き残るのなんて無理だ」
「逃がすかよ」
時雨はゆっくりとした調子で、但し、常人からすれば明らかに異常な速度で駆けて来た。
海田が消える。
「舐めてんじゃねえぞテメエ!!」
海田の声が部屋に反響した。
ハーレム要員たちはただ、海田を心配するように――そして壱の方を見る。
クレアは世界の瞳を発動した。
標的は時雨。
時雨への視点へと切り替わる。
そして、クレアの視点も脳内で映像として出力される。
「舐める? コレは余裕っつーんだよ!」
真後ろの放った裏拳は海田の顔面を貫いた。
「うがっ……!?」
インパクトと共に壱が時雨の腹をぶん殴った。
「!!?」
時雨は思い切り、身体を捻り、ギリギリで避ける。
拳の周りに見えないほどの少量の粒子が纏っていたのか、脇腹が切り裂かれた。
「ありがとな海田!」
拳を引き、もう一度切り裂く。
「くそ……っ!?」
連撃。
拳を更に放つ。
「おおおおおおおッ!」
時雨の身体を透過し、まだ吹き飛んでいる最中だった海田に当たりかける。
「うわあああッ!?」
壱は拳を咄嗟に引き下げ、その際のほんの少しの隙が時雨のとっての長い時間だ。
「や、べえ……」
まだ、海田は現状把握もできずに顔を歪めている。
クレアは叫んだ。
壱は時雨の拳を額で受けた。
「ご、あ……!?」
海田より先に壁へと叩き付けられた。
クレアの声がそして、響いた。
「私はどこにでも行くから壱さんを助けてください!!」
声は