海田京と考え方
「食べ放題だけどさ……」
海田は暴飲暴食を地で行く雪に呆然とする。
そして、美少女を連れているせいか視線が痛い。
(ていうか、何でコイツら食べ放題に来てるんだ?)
「いやーこの生ハムメロン美味しいよ? 食べる?」
と、フラインがメロンに生ハムを乗っけただけ、というある意味斬新な食べ物を口に近づけてくる。
にっこにっこ、笑いながら何かを期待するような瞳でコッチを見てくる。
何? それを食べればいいのか?
「ちょっと待ちなさい。今は京は、わ、わわ私の彼氏だ! 私が食べさせるべきだろう!」
とか超理論を展開する早瀬。
いや、止めさせるだけでいいんじゃね? とか海田は思う。
「……にしても、壱の戦いは凄かったよね」
と、涼宮が思い出したように言う。
(確かに凄かったな……)
京は気になったので壱の後を尾けると、二人は猛烈な勢いで戦い始めたのだ(透視魔術を使った)。
というか、見えなかった。気づいた時には対衝撃用の壁が剥がれたり、凄い音が響いていたり。
「アレはもう人じゃねえよ」
プライドがズタズタにされた場面、と言ってもよかった。
学園に来てから色々巻き込まれたが、負けることなどなくここまで来た。
そして壱が現れてから全てが一変した。
京に絡んできていた何人かの女の子は壱に惚れて京に会いに来ることはないし(挨拶くらいはするが)、視線も変わった気がする。
今までは「すげえなあ」みたいな感じだったのが「あー転校生に負けた奴か」に格下げされているのだ。
まあ、そんな些細なことはどうでもいい。
大事な事は壱にとって海田京とは全力を出すまでもない相手であり、路上のアリのように無視できる相手であるという事実だ。
確かに負けはしたが、修練さえ積めば勝てる相手だと思っていたのだ。今までの相手のように、楽勝で。
「胸糞わりい」
壱が本気になればSクラスは全壊、全員病院送り決定だった。
なのに本気を出せ、何て言っていた自分は恐らく壱に内心小馬鹿にされていたに違いない。
『本気出したら指先一本でテメエら殺しちまうっつーの』みたいな感じで。
「京? なんか怖いよ?」
フラインが顔を覗き込んでくるので意識が現実世界へと帰って来た。
全員、京の只ならぬ雰囲気に圧倒されたように黙っている。
その事実が海田の胸に突き刺さった。
「多分、俺、調子乗ってたんだな。学園来てからいきなりお前みたいな可愛い女子に会って、嫉妬してくる奴を黙らせて……色んな事があったよな。アイツに会うまで」
全部が全部、暴力で解決してきた。
絡んでくる奴も、ムカついた奴も。
その結果がコレだ。
女友達は壱に惚れて、地位は大きく落下した。
『転校生に負けた無様な人間』となっている。
壱はかつての海田とは違い『絡みやすい変な奴』として定着している。
多分、海田は道を誤った。
もっと方法があったんじゃないだろうか?
電撃や闇の槍、なんてヘタすれば死んでたし。
思えば、学校の迷惑なんて考えてなかったような気がする(まあほぼ京の周りに居る女子のせいだが)。
完全に調子に乗っていた。
実力がわかっているのなら戦わなければよかったのだ。
壱のような方法でもよかったかもしれない(早瀬みたいなプライドの高い奴は怒るだろうが)。
「アイツは蛙って言ってたけど、その通りかもな。自分よりも実力のない奴しか居ない箱庭の中で暴れてただけだったんだ」
京の言い分に雪は言い返す。
「……アイツも似たような感じでしょう。私達のプライドや関係をズタズタにして笑いながら帰っていっただけでしょ」
「でも、誰も傷つけてない。アイツは戦うのは止めにしようぜって言った時に止めてけばよかったんだ」
その時は全員敵意剥き出しだったし。
関係を悪化させたのは寧ろ、引き止めた沙耶先生であったり京自身だ。
「……でも……」
「それに、関係は仕方ねえよ。アイツの生き様や強さに惚れたくなる気持ちもわかるしな」
「えっ!?」「京ってホモだったの?」
「無理やりコメディ調に持って行こうとするんじゃねええええええ!!!」