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作戦

「無力な天司を護りながら俺に勝つ、ねえ……無理じゃねえかな。どう考えても」

 身体の周辺に小石を衛星のように周回させつつ言う。

「たっく。まさかあんだけ持ち上げられてた海田よりも強い奴があっさり出て来ちまうなんてな……」

 壱は世界の理不尽さをヒシヒシと感じながら言う。

(コイツと戦いながら壁を壊す、なんて実力差から見て出来ないし……助けも期待できない……クレアの分の粒子を使った所でどれくらい能力値があがるのかもわかんねえ……)

 八方塞はっぽうふさがりだ。

 圧倒的な劣勢に奥歯を噛み締める。

 と。

 そこで柔らかな手が壱の肩を叩いた。

「壱さん。作戦」

 その声は真後ろから聞こえた。

「クレア?」

「(私の能力の全てを使って壱さんをサポートします。だから粒子を外してください)」

「は? 粒子を外す? 出来るわけねえだろ! 死にてえのかお前は!?」

 壱の驚きの混じった怒声にクレアは否定して言う。

「大丈夫です。私は天司ですから死にはしません。それに、このままだと壱さんは負けてしまいます」

「……」

「だから私の能力でサポートさせて下さい! 成功すれば、勝てます」

 真っ直ぐで情熱に溢れた瞳に壱は思いっきり溜息を吐く。

「何か、お前のそういうとこ苦手だわ俺……でも、まあよろしく頼む。完璧な支援を期待してるからな」

 護らなければいけないという強迫観念に似た思いが壱から抜けたからか、緊張が少し解れた。

 身体が軽い。

 陣は待ちくたびれたように欠伸をする。

「作戦会議は終わりか? つっても、人の視界を奪ったり間借りするだけの能力で何をするんだか」

「私の能力はそれだけですけど。もう一つ、天司全員が持っている能力がありますから」

「天使を操る能力か……言っとくが、ソイツも俺には通用しない。俺には俺の天使が居るからな。操れないぜ?」

 壱はその言葉に一瞬不安になり、クレアを見るがクレアは真剣な表情を崩していない。

 多分、大丈夫なのだろう、と思う。

 普段が普段なので絶対と言い切れない所に一抹の不安を抱く。

「ま、いいや」

 どんな作戦があったとしても『実力』で何とでもなると、言外に告げるように軽く首を振った。

 刹那。

 小石が散弾銃のように飛んできた。

「くっ!」

 壱は右手で弾丸と化した石ころを弾き飛ばす。

 今はクレアが相手の視覚を全て奪っているので目が見えない筈なのだが……もしかしたら風でコチラの位置を掴んでいるのかも知れない。

 粒子が壱の眼前に集まった。

『壱さん! 風の壁がやって来ます!』

 それは擦れるような声だった。

 音を伝えるのが遅い空気の変わりに天使を媒体とした超高速伝達術。

 壱の耳元に天使と配置させ、空気と同じく『揺らぎ』を起こすことにより『声』を作り上げる。

 この方法を使うには壱の『粒子』は使えない。

 クレア曰く、粒子から天使が逃げてしまうから、らしい。

 上位の天司ならば壱の粒子の届かない場所から『天使』を使役して操れるのだがクレアはまだ天司として未熟な為、肌で触れれる天使しか操れない。

 故に。

(アイツを護るための粒子は使えない!)

 しかし、壱の粒子でも操った天使なら無理やりに介入させることが出来るのは僥倖ぎょうこうだった。

 直後、クレアの言っていた壁がやってきた。

 ベコッ! とあり得ない音を粒子は響かせる。

 ゴムボールを両手で押し潰すかのように、粒子がへこんでいく。

 壱は風を流す為に粒子を操作しようとした瞬間、

『壱さん! 背中に……!』

 背中に衝撃が走った。

「……かっ、は……?」

 まるで鈍器で殴られたような痛みは背中から腹にまで届いた。

(風の棍棒メイス……ッ!?)

 息を吐き出すことも吸うことも出来ずに咳き込む。

「ったくよお。舐められてるよなあ俺も。こんな穴だらけの作戦で俺の勝てると思ったのかよ?」

 見下すような声が届く。

「が、は。ごほ……あ、が……」

 壱は息を懸命に整える。

 何でクレアは見抜けなかった?

 それとも、クレアの反射神経じゃ届かなかったのか?

 呆れたように陣は言う。

「俺は確かに風を視覚化させてよく見えるようにしてるけどそれだって俺の魔術だ。ONOFF可能に決まってるだろ? それに俺の視覚を天司に奪われて利用しないとでも思ってるのか? 呆れるな」

「お前は今。クレアに視覚潰されてんだよな?」

「風を感じて、お前らの位置は把握出来てるけどな」

「つーかさあ」

 壱はふっと囁くように笑う。

「俺らもこの状況を利用しないとでも思ってんのかよ?」

 陣の顔が引き締まった。

「ま、さか……ッ!?」

「ああ。そのまさかだ。俺の粒子は素粒子並みだしな。どこに行ったかなんてこの空間全てを――素粒子すら一つずつ把握してねえとわかんねえよ」

 視覚さえあれば、壱の視線などでわかったかもしれない。

 もしかすると、純白に光る『何か』を見つけてこの作戦は水泡に帰したかもしれない。

 だけど、視覚さえ奪えれば壱の粒子を発見することはまず不可能だ。

「……くっ! 俺の風の法則から逸脱したモノを調べれ上げれば……ッ!」

「もう遅いっつーの!」

 陣の身体に巻きつけてある風から突如現れた純白の拳。

 それが、陣の顎を跳ね上げた。

「……がッ!!?」

 陣の身体が浮き上がる。

 瞬時、壱のを護っていた粒子が風で巻き上げられた。

 ベギリ、と銀の壁が耐え切れなくなり、根元から捲れた。

 大砲ですら無効化する対衝撃用の壁が戦いの衝撃という間接的な要因で潰れたのだ。

「え……?」

 壱はまだ陣が粒子を吹き飛ばせるほどの力があることに驚く。

(イタチの最後っ屁ってヤツか……)

 しかし。

 壱の考えは一瞬にして根底から覆される。

 陣は浮き上がった体勢をビデオでも巻き戻したかのように整えた。

「嘘、だろ……?」

 あの一撃は常人には耐え切れない筈だ。

 そして、顎に鈍器で殴られた衝撃が襲い掛かった。

「が……ッ!!」

 ギャグ漫画のように天井に音速を超えてぶち当たる。

 そのままの勢いで地面に身体を打ち付け、跳ね上がりボロ雑巾のように転がって行く。

『壱さんっ!!!』

「お前、まだ俺を殺す気で来ないと本当死ぬぞ?」

 圧倒的なまでの一撃。

 視界がチカチカと点滅して上手く見えない。

「壱さんに何を……」

 クレアが何か言う前にサンドバッグを殴った音を百倍にしたような鈍く大きい音が耳を叩いた。

 そして、次の瞬間。

「……!!」

 声が飛ぶ(・・)というあり得ない音が聞こえた。

 声が置き去りにされるような音。

 もはや音として成立されない音だ。『残声ざんせい』とでも呼べばいいのかもしれない。

「……」

 クレアだ。

 クレアが今、やられた。

 風の鈍器なのか、何のかはわからないが傷ついた……。

「テメエ……」

 己の無力を感じながら、静かにしかし怒りに満ち溢れながら言った。

 ゆっくり、立ち上がる。

 風の弾丸が粒子を千個程弾き飛ばした。

「クレアに、何しやがった!!」

文章力、あがってるでしょうか?

ていうか、読者的には前の文章の方が見やすかったりするんでしょうか?

そこら辺の感想を下さい。

……いや、そこら辺でなくも感想は欲しいんですがw

えーでは一つ、くそどうでもいい裏設定でも。

フレアのお父さんの大手会社と大和製鉄は関係良好ですw

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