壱の力
まるでそこは映画館だった。
事実、ここは映画館を完璧に模したモノだった。
ご丁寧に非常用出口まである。
それがたった一人の男の為に作られたモノだとは誰も思わないだろう。
しかし日本、イギリス、オーストラリア、韓国、アメリカなどの日本と手を取り合っている国に武器を売り、商売している『大和製鉄合同会社』の社長だと知れば誰しもが納得するだろう。
薄暗闇の中、ぼんやりと発光する大幕は海田と女達をくっきり映している。
ほぼ同時に全ての女子が倒れた。
と。
皺が深く掘り込まれた六十三歳の社長――│大和和也の横でむしゃむしゃポップコーンを食べていた青年は欠伸を噛み殺す。
鮮やかな茶色の髪に、好戦的な大きく鋭い瞳が特徴的なカッコいい容姿をしている。
名前は│雨宮時雨だ。
「こんな情報で倉敷壱の強さはわかんねえな。敵が雑魚過ぎる上に動作が飛んでる」
映像は写真を一秒間に何回も撮り、それらを繋ぎ合わせることで初めて映像として出力できる。
しかし、あまりにも速いモノがあった場合、写真を写す瞬間に別の場所へ行っている為、飛んでしまうのだ。
「そこまで速いということか」
低音の声を映画館内に響かせて、大和がゆったりと言う。
動揺もしていなければ驚きもしていない。
このカメラは一秒間に千コマ撮るモノだったのだがそれでさえ追いきれていない。
時雨の見立てだと、音速は軽く超えている。
更に言えば、音速を超えた人間が放つ衝撃波すら見当たらない。
ということは、倉敷壱は全ての人間を護りつつSクラスを無傷で撃破したことになる。
あの純白の粒子の性能の良さと万能さは凄まじいモノがある。
「まあそういうことだな。つってもこの海田って奴弱いな。こんな奴をお前は欲しがったのかよ」
ポップコーンを放り投げ、口に入れるその直後に手が伸びて大和に弾き飛ばされた。
「あ」
「お前はわしの社員だろう。お前呼ばわりは止めろ」
「わかったわかった。社長……でもこの映像はどういう見方をしようと何の役にもたたねえな。女子高生の屈辱シーンが好きな人には需要はあるかもだけど」
くっく、と笑いながら容器を傾け、一気にポップコーンを口に流し込む。
「海田が弱すぎるのか」
「ま、俺達七大魔術師や倉敷から見ればな。世間から見りゃあ、十年に一度の天才クラスか。運が普通なら勝ち続けて人生終われる」
「よくも悪くも天才クラス、か。お前ら異端とは違う訳だ」
「しかしまあ。あのモテ具合は異端クラスだと思うけどな俺は……ってマジかよ! アイツら倉敷に惚れやがった!!」
ぎゃははははは! と腹を抱えて笑う。
昨日見た雑誌に書いてあった夏は『出会いの宝庫』だとか『開放感いっぱい』だとか『恋せよ乙女』だとかいう馬鹿みたいな言葉の羅列を思い出して更に笑う。
横で大和が侮蔑のこもった眼差しを向けているのにも気づかない。
大和は時雨が笑い終わるまでたっぷり二十秒ほど待ってから言った。
「お前にやってもらう仕事はもう言ったな?」
時雨は鬱陶しそうにポケットからグシャグシャになった写真を取り出してぶっきらぼうに言う。
「天司を連れて来ればいいんだろ」
「そうだ。多少なら手荒に扱っても構わない」
「天界や国が黙ってねえかもよ?」
時雨は手にしている容器を魔術で消し飛ばす。
容器は眼に見えない程に細かく切り刻まれ、宙に飛ぶ。
「国に圧力でもかけるし天司に法的人権はない。そして天界は干渉してこない」
へえ、と時雨は眼を細める。
「楽しめそうじゃん」




