壱&クレアの夕方2
結局、ホームレスが住んでいる廃病院を回るに終わった。
ここをクレアが残していた理由は百パーセント怖いからだろうと、壱は推測している。
晩飯を食いつつ、『ふるるん海葡萄』を見る。
教育番組だったらしく、懐かしい雰囲気があった。
今日の晩飯は焼き飯と豚汁、そしてゴーヤチャンプルだ。
「うん、旨いな豚汁って」
「それはよかったです……それでこの怪物は一体……?」
「いや、それは着ぐるみだ。あー人が着てんだよ」
「何でこんなわけの分からないモノを好んで着るんですか?」
「……子供に人気だからじゃねえの?」
クレアのケータイから黒電話のリーンリーンという音が鳴った。
メールか電話だろうが……。
「お前って教えたヤツ居んの?」
「今日何人かの人に訊かれて教えました」
と、嬉しそうに報告してケータイを開きフムフムと頷くこと三秒。
「ぶふう!!?」
ゴーヤを吹いた。
べちゃ、と壱の顔面にクレアの唾液で濡れたゴーヤが当たり、テーブルに落ちた。
「壱さん!? こ、コレ見てください!」
クレアは興奮しながら壱にケータイを握らせる。
反対の手でタオルを使い顔を擦った。
「……ゴーヤを飛ばすほどのモンなんだろうな?」
そう言いつつ、見ると……
「ぶはっ!!?」
焼き飯を思いっきり吹いてしまった。
超至近距離にクレアが居たため、全てが顔面にぶつかる。
「きゃあっ……!?」
「あ、わりい!」
「もう……壱さん……まあ、驚くのはわかりますけど」
壱が使っていたタオルで顔をゴシゴシ拭きながらクレアは言う。
「悪い……つーか。告白? コレ」
「……多分。好きです付き合ってくださいって書いてありますし……」
「あーコイツ、誰? ていうか、付き合う気あんの?」
「……この人のことよく知りませんし……そもそも何で私を好きになったんでしょう?」
そう言えば、といった感じでクレアは首を傾げる。
「そりゃあ、外見がいいからだろ。男が女を好きになる原因なんてそんぐらいしかねえって」
豚汁を飲みつつそう言う。
告白くらいで驚いてしまったのが馬鹿みたいに思えてくる。
「……そういえば、天司長キノコさんも仰ってました。男が女を好きになるのは外見で女が男を好きになるのも外見で。男が女と一緒になる理由は従順さで女が男と一緒になる理由は金だって……本当なんですか?」
悲しそうな顔で壱に尋ねる。
「……えー? そんなこと訊かれても……つーか天司長シビアだなオイ」
どうだろう? それだけではないにしても結婚相手に求めるモノ、としてはランクインしそうだ。『性格』と『甲斐性』という聞こえがっての良い言葉を使って、だが。
しかし、この顔を目の前にしてソレを言うのも余りに可哀想な気がする。
「つーか。どうすんの? その告白」
「……う~。どう断ったらいいんでしょう? 何かありますか?」
「普通に断ればいいんじゃねえの? どうせ一週間くらいでケロッと他の女を好きになってるって」
「そんなの分かりません。もしかしたら、ショックで自殺……」
「ないない。お前がそんなに魅力的な訳ねーしな」
あっはっは、と壱が笑う。
そんなこと、と文句を言おうとしたクレアはモテないという事実を思い出したのか「あるかもしれません……」と力なく呟いた。
そんな感じで夜の時間は過ぎていく。
ЖЖЖЖЖЖ
壱が寝静まった午前二時。
クレアはボイス日記を録ることにする。
ポケットから小さなマイク型の録音機を取りだす。
親切な方から貰った品である。
クレアの約二週間の思い出がここには詰まっている。
「壱さんに聞かれると恥ずかしいですから」
そう独り言を言いつつ、トイレに閉じ篭り話し始める。
ЖЖЖЖЖЖ
えーコホン。では七月十九日の日記です。
今日は壱さんと私は人生初の告白をされました。
えーと。壱さんは物凄く酷く振った、と私に告白してきた男の子……え、と……畑さんが言ってました。
どうやら壱さんは『愛』というモノを信じていないようです。
でも、その割りに優しかったりモテていたりと不思議な人です。
海田さんは壱さんに再戦を申し込んだり、闇討ちしたりしてるらしいですけどことごとく壱さんに無視されたり、たしなめられたり、壱さんのことを慕うようになった海田さん軍団の女の子達がボコボコにしてるらしいです。
そういえば、海田さんは壱さんに負けて以来、学園のファンクラブが解散したらしいです。
壱さんに言った通り、人間には愛がないんでしょうか?
……ってあれ? これ私から見る壱さんの日記になってますね。
えーと。
今日の私は壱さんのお弁当と私のお弁当を作って、お店で買い物に行って壱さんが昨日「あー芯切れちまったな」と言っていたのを思い出したので芯も買い学校に行きました……あ、そういえば芯を買ってきたので壱さんが珍しく褒めてくれました。
録画番組を間違えちゃいましたけど……プラスマイナス〇ですよね!
それから帰って洗濯物をして悪魔を探索に行って、不良の皆さんに絡まれた子を助けたりしました。
それで四時になったので壱さんが帰ってくると思い寮に。
壱さんには世界の瞳が通用しないので暇です、と呟きながら待つ事一時間。
流石に心配になって三十分待ったら壱さんが帰ってきたので嬉しかったです。
でも、壱さんがげんなりした様子で「先は長いなー」と言った時、少しむっとしました。
悪魔を早く退治するのはいいことなんですけど……何でなんでしょう?
……あ、アレ?
また壱さんの話題に……。
ま、まあ壱さんは私と同居中のパートナーですから全く不思議じゃないですよね?