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史上最強
理事長室の机で沙耶は携帯電話を通じてある人物と話していた。
「ええ。上手くいったわ……まあ強引すぎだけどね」
『現実から剥離しすぎた事象は、人間の判断能力を極端に鈍らせるもんだ』
威厳に満ちたその言葉は空気を震わし、沙耶の鼓膜を叩く。
「全くあんな事の為にこの学園に入学させるなんて……何考えてるの?」
机においてあった熊のぬいぐるみの鼻っ柱を、まるで見えない現実を倒すように指で押し倒した。
『ただ俺は実力のある者が欲しいんだよ。もしかして……またあんなカスじゃねえだろうな?』
言外に次はないぞ、と脅しているのを明確に感じた沙耶は見えない圧力で汗が吹き出る。
あの少年――倉敷壱の力は魔術ではない原理で動いている。
間違いない。
あの壱こそ、史上最強の力の使役者。
「大丈夫よ……」
言葉を搾り出した。




