異端と天才
「勝負開始!」
その掛け声を発した瞬間、この学園最強の生物と転校生の勝負が始まった。
二人の少年は音と共に消える。
それと同時に土が小型の爆弾で吹き飛んだように散った。
移動速度は音速手前。
『眼』を強化する魔術を身につけていない人間は見ることさえ敵わない人間離れした勝負だ。
(さて、コイツには世界の広さを知って貰ってプライドズッタズタにしてやる)
「な……!?」
会場内の人々は一様に驚きを隠せぬ様子でうろたえ、京のハーレム要員達は魔術を使い二人の姿を眼に留める。
「まさか、ここまでやるとは思いませんでしたわ倉敷壱……」
「だけどまあ、京の勝ちは揺るがないでしょ」
キセヤと文がそう言うが、麗那だけは無言で二人を見ていた。
そして、壱とトランプな仲間達は綾瀬の勝負で決着がついたらしく、鞍馬遊星は肉眼で悠々と見つめ、クリスは眼を強化する。
綾瀬は空間感知魔術で二人の様子を脳内でトレース。
クレアはクレア自身の能力――『世界の瞳』を発動。
クリスの視界を一定期間間借りさせてもらう。
「終わりだッ!!」
海田が壱の懐に潜り込み、拳を繰り出した。
わりと強かったが、これは避けれない。
これで終わりだ。沙耶先生は本気を出せとか言っていたがそうでもなかったな……とそう思い――
とん、と足の裏で拳を受け止められていた。
「ほらほら終わりなんじゃねえのかよ? 足だけで止められてっけど?」
壱の挑発的な口調に怒りを覚えた京は左手から多大な炎を発する。
マグマのようなどろっとした摂氏五千度のあり得ない炎は逆巻き、壱の顔面を飲み込んだ。
「オイオイ。この程度で俺が火傷でもすると思ってんのか?」
ふっと足を軽く振るい、京の顔面スレスレで止めてやる。
「ホラ。もっと本気を出せよ。じゃないと俺はチェックメイトも終わりにもならないぜ?」
「くっ……!?」
京は壱の足を左手で払い除け、後退する。
会場内はそれだけでざわつき、沙耶が「おーっと壱の優勢だあ!」と会場内を煽る。
「それとも本気でやってこの程度だったか? だったら謝るよ」
「ふざ、けやがって……」
「言う台詞が全部三下だぞ? 意識してやってるんなら大したモンだ」
「テメエは俺がぶっ飛ばす!!」
京の身体が青白く光輝き、電流が迸る。
京は音を置き去りにして身体を消した。
自己魔術だ。
自分のPSを魔術に進化させたその人独自の魔術。
「ふうん……音速を超えれるのか」
特に感心した風もなく壱は呟く。
「何であんな三下主人公満載なんだろうなあ」
「テメエ言ってたよな? 本気を出せってさ?」
「……」
「お望み通り、テメエをぶっ飛ばして俺の本気を見せてやる!」
このザコが――! と壱の様々箇所を一瞬で攻撃していく。
左肩、腹部、背中、顔面、右肩、腰、左足、右足――!
そう、海田京は争いごとにわりと縁があり、喧嘩や殺し合いなど日常茶飯事……というほどでもないがまあよくあった。
だからこそ、相手の急所が見える。
(魔術を使わないでも並みの魔術師なら勝てる俺が自己魔術――『紫電』を使えばどうなるか)
「これで、終わりだあ!!」
「まあ、それがどうしたって話なんだけどさ」
倉敷壱はその猛攻を喰らってなお、無傷で立っていた。
しかし、京は笑う。
「はっ。テメエの身体に俺の設置術式を仕込んでおいた。それを見抜けない時点でお前の負けだよ。三下主人公が」
パチン、と指で音を鳴らすと――何も起こらなかった。
壱はくっくと笑いながら言う。
「その対策を施していたのを見抜けない時点でお前の負けだよ。三下主人公が」
あの連撃のとき、自分の身体表面に微細な粒子を敷き詰めたお陰で設置術式は粒子に刻まれた。
そして、粒子故にパズルのピースのごとく設置魔術は意味をなさなくなったのだ。
そして、粒子を自らの身体に吸収。
さっきの京を越える速さでもって京の頭を撫でた。
「ま、世界は広いってことだよ。蛙君」
「ふざっけんなあ!!」
紫電を纏い、消えた。
円を描くように一瞬で雷の柱が設置された。
「雷柱!!」
決戦場の空気が大きく膨れ上がった。
サポート席からは球状の防御ガラスが展開される。
青白い光が会場内を満たし、そして……。
「これがお前の全力か? だとしたらガッカリだ」
地面は焦げ、防御ガラスに罅が入り、沙耶は防御に精一杯だった様子で実況をせずにふう、と息を吐いている。
今度は京さえも認識できない速さで近づきポンポン、ともう一度京の頭を撫でた壱は会場内に響くような声で言い放った。
「ギブアップしまーす!!」




