表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/116

崩壊

 千夏はまだ夕方なのに人通りの少ない道で見かけたカップルを殴って別れさそうとしたところだった。

 男も女もみっともなく千夏に命乞いをしているが、そんなことは聞いていない。

「別れるか?」

 男は女を横目で済まなさそうに見てから、左肩に衝撃が走った。

 灼熱が肩口から真下にすっと降り、腕が斬れた。

 ぽとり、と血を流す千夏の腕。

 勿論、肩口からも血が溢れている。

「で? 別れんの?」

 千夏は何でもないようにそう問いかけた。

 そこで、男と女は同時に気絶。

 泡を吹いて倒れた。

「オイオイ。まだ別れるかどうか聞いてねえんだけど」

「お前の相手はこの私よ」

 千夏がゆっくりとした動作で振り向くと同時に腕が浮遊し、肩口に引っ付いた。

 綺麗に神経の一本までも。

「全く、あの雑魚の悪魔憑きを探してたんだけど別の奴が当たるとはね」

 千夏は女の子を見て硬直した。

 女の子は可愛かったのだ。

「まあ相手はしてあげますけど。勝ったら付き合ってくださいね」

「はあ!? 何言ってんの?」

 女の子は不快そうに眉を顰める。

「名前は何て言うんですか?」

「……名前? 海よ」

「海さんですか。ボクの名前とぴったりだ。ボクの名前は千夏ですから」

 言いながら視線を廃ビルの方にやる。

「あそこで戦いましょうか? 邪魔が入らなさそうだ」


ЖЖЖЖЖЖ


 海は劣勢だった。

 相手は全ての魔術を無効化して進んでくる。

「うわああああああ!!」

 叫び、全ての力を振り絞り、真剣を振るう。

 千夏はそれを横っ飛びで避けた。

 真剣は爆炎を吹き、パイプが剥き出しの壁を破壊する。

 真剣は粒子となり、一瞬で銃へと形を変化させた。

 引き金を二回、三回と引く。

 凄まじい爆音と同時に射出される炎弾。

「はあ!」

 千夏の足元から水が噴出し、炎弾を飲み込み、更に海を飲み込もうとする。

「ッ!」

 銃から炎弾を飛ばし、天井に穴を開け更に津波に大き目の炎弾を撃った。

 あまりの高温に水蒸気爆発が巻き起こり、その衝撃を利用して二階まで飛ぶ。

「空中って海さんは動けるの?」

 海は横腹を思い切り蹴飛ばされ、壁に叩きつけられる。

「か、は……っ!?」

 空中に浮いている千夏を朦朧とする意識で見る。

 強い。

「だけど。これで終わりよ」

 千夏の全身が炎の柱に焼かれた。

 真下からの一撃。

 海のケイトスを使った魔術だ。

「なあ。海。お前知ってるか? PSってよ『自分の歪んだ考え』が語源なんだぜ?」

 身体が所々防御できずに火傷を負い、皮膚が爛れているがそれを悪魔の力で治していく。

「海。お前の歪みは以外に大きいな」

「知った風な口を聞くんじゃない!」

 叫び、銃を乱射するが千夏には一発たりとも入らない。

 壁や天井に傷跡を残すだけに終わった。

 天使を扱い、魔術を扱うにはPSと魔力が居る。

 言い換えると歪んだ考えと生命力だ。

 人間は誰しも歪んだ部分を持っている。

 それは何かに対する差別であったり、世界の見方であったり性癖であったり、人の愛し方だったりする。

 それに天使は魅了されるのだ。

 人間独特のその歪んだ考えに。

 そして、魔力は天使のエネルギーであり、それが少ないと魔術の発動ができない。

 つまりは歪んだ天使を魅了する歪んだ考えと、魔力があって初めて魔術師は誕生するのだ。

「さて、気絶でもさせて持って帰るか」

 右腕を軽く振るう。

 本来なら空気を圧縮した衝撃波が出る、筈だった。

「悪魔の野郎……!?」

 悪魔が恋人が出来て力を振るう機会がなくなると困ると思ったのか、右腕から多量の力が吹き出た。

 どす黒い怨念のような闇が海を襲う。

 千夏はどうすることも出来ない。

「……」

 海は身体中の力が入らないことを感じて、力を抜く。

 もう無理だ。

 動けない。

 悪魔を殺す尽くすという目的は果てせないままだが、辛い記憶を背負ってこんなことをしても意味もないことはわかっていた。

 もう良い。

「たっく……! 悪魔を捜してたら見つけたのは悪魔憑きかよ!」

 あの悪魔憑きが立っていた。

 純白のグローブを身につけて、どす黒い闇を打ち晴らした。

「助けに来たからもう泣くなよ」

「は? 誰が、泣いてたって……」

 頬を伝わる涙の存在を初めて気づいた海は恥ずかしくてすぐに拭う。

「アンタが敵う相手じゃないわ。逃げるのなら逃げ――」

「大丈夫だよ。お前も俺も生きて帰る。それにあんな叫び声を聞いたんじゃ帰るに帰れねえよ」

「な……っ!? 何ふざけた寝言を」

 海を無視して壱は千夏の方に向く。

「おい。悪魔を引き渡す気はねえか?」

「ないね。この力で世間のカップル全てを別れさせるまでは!!」

「……あー……聞かなきゃよかった……」

「俺の目的を馬鹿にするなああああああ!!」

 氷、雷、炎の槍を一瞬で生成、そのまま音速を超える速度で壱を貫こうとする。

「邪魔だ」

 三つの槍は壱の拳で全て破壊される。

 悪魔、天使を問わず浄化させる力を壱は持っているのだ。

「これでもまだやるか?」

 壱の問いかけに千夏は笑う。

「はははははは!! ……楽勝だよテメエなんざ」

 悪魔を媒体に天使へ己の感情を流し込み、堕天させる負の連鎖を即興で作り出す。

 それは壱のみだった場合は成功しただろう。

 しかし、壱には天使を操る性格のいい天司が一階に居る。

「な……っ!? 俺の悪魔どもが次々と寝返りやがる!!?」

 千夏は悪魔を天使と干渉させないように己の中へと閉じ込め、焦る表情で壱を睨み付ける。

「悪魔憑きを倒す方法は何個かある。悪魔の十倍の量の天使を流し込み、悪魔の浄化を図るか、今みたいに天使に正の感情を流し込んで悪魔と対決するか、悪魔憑きを殺すか……」

 とん、と音速で千夏のもとへ潜り込み、純白の光の粒子を拳ごと叩き込んだ。

 壱の粒子は千夏の身体へ入り込み、悪魔を殺した。

「俺の能力の一つ魔術の構成、悪魔の構成を壊すことのできる『崩壊』を使うか、だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ