悪魔憑きの壮大な野望
「くはははははは!!」
悪魔に魂を売った男が哄笑する。
目の前には見るも無残な男の生ける屍があった。
女物のパンツを頭に被り、天井から吊るされた縄で縛られ『SMプレイ中です!』と大きく書かれた紙を口で挟んでいる。
そして、頬には赤い紅葉のような綺麗な手形。
「くううわああ!」
「何を言ってるかわからんなあ」
男はコレ以上ないくらいに不細工だった。
まるで岩石を適当に掘り起こしたような顔で、その頬や額には油がじわんりと浮き、身体からむわりとした湯気さえ出ている。
一生の三分の一をカップルを憎むことに使い、これまた三分の一を女を憎むことに使い、そして自分よりも容姿のいい男を憎むことに三分の一使った男の末路である。
絶賛SMプレイ中の男は紙を落とす。
「お前、日笠のくそ不細工がふざけんなよ!」
男は一般的に『ちょっとお茶目なヤンキー君(不細工には容赦しないよ♪)』な奴だった。
悪魔憑きの男――日笠千夏を苛めていた男でもある。
名前は仙道大輔だ。
「テメエがふざけんな! 顔がいいからって調子乗ってんじゃねえぞ! 友達も居なく、彼女も出来ずに同じ不細工な奴らからさえ敬遠された俺の気持ちがわかんのか!! テメエの存在は正直どうでもよかったけど……」
「どうでもいいなら何でこんなことしやがる!」
「いや、綺麗な彼女が居るって聞いたからさ。別れさそうと思って」
「テメエふざぶらあッ!?」
千夏は容赦なく大輔を殴った。
それだけで大輔は失神する。
「ま、今までの分、ってことで」
店屋物を大量に頼み、玄関のドアに『勝手に入ってきてね』と書いて出て行く。
「ふははははははは!!」
この力さえあれば、あの忌わしいバレンタインも『せいやのクリスマス』も全て潰せる。
キッカケはネットだった。
悪魔を憑かせる方法というのが載っており、それによると、専用の機器を使い、天使を捕まえたあとに天使に対して恨み辛みをぶつければいいらしい。
それから千夏は天使を堕天させる為に尽力した。
瓶に入った天使にぶつぶつと気持ち悪さを倍増させるような独り言をぶつけ、そしてある日天使はどす黒い闇色になっていた。
蓋を空けると天使――いや、堕天した悪魔が日笠に力を分け与えてくれた。
代償は千夏の魔力。
「さて……」
海田京という奴をブチ殺しに行くか。