悪魔憑き
「さいっあく!!」
一人帰り道の林道で絶叫する男の名前は倉敷壱だ。
類まれなるネガティブ――俺なんかがモテる訳ねえよな――思考により、クラス中の反感を買った鈍感(恋愛面で)男である。
命からがら(しかし無傷で)帰還した壱は皆の形相を思い出し、ぶるっと一つ身震いした。
「何で怒られたか全くわからん……」
ふいっと首を捻り、そして。
「この天使の揺らぎ――悪魔憑きね?」
「ん?」
真後ろに女の子が居た。
気配は感じなかったが、今では膨大なまでの殺気と闇のように濃い気配が漂っている。
黒い髪を肩甲骨の辺りで結わえたポニーテールがよく映える気の強そうな女の子だ。
鋭い眼差しと大降りの真剣をコチラに向ける。
ジーパンにTシャツという出で立ちで身長は壱の頭一つ分低い。
(そういや、海田達は悪魔を倒したとか言ってたなあ……)
「悪魔? そりゃあ俺の……あーアイツって俺の何なんだ?」
壱は首を捻り、そして、木刀が目の前で爆ぜたように火を噴いた。
少女が一瞬で壱の間合いに入ってきたのだ。
話せばわかるとか高を括っていた壱は堪らず声を上げる。
「うわ!?」
炎を受け――しかし、純白の結界で守護されながら転がるようにして逃げ出す。
「この悪魔憑き……理性を兼ね備えてる?」
目を細めながら意味不明な驚きを勝手に展開。
「ちょっと待って!! 俺は人間で……!」
「天使が畏怖する唯の人間が居るモンか」
「ひいい!!? ちょっと待って! 俺が悪魔憑きだったとしてお前が狩る意味なんてどこにあんだよ!」
「相手が人に仇名す悪魔なら理由は十分よ!」
木刀を横に薙いで壱の尻を捉えた。
灼熱を帯びた木刀は純白の粒子が受け止めてくれ、壱は林の中へと飛び込んだ。
「何て危ない奴だ……!? 悪魔よりこええよ!」
そう言いながら林を右へ左へ敗走を開始する。
ЖЖЖЖЖЖ
「チッ……逃がしたわ」
黒髪の少女は『ケイトス』を操り、木刀を空気中に霧散させる。
人は極稀にある一定の天使に気に入られることがある。
その天使はその人物に憑き、持てる力全てを扱いその人の為に尽力する。
それがケイトスだ。
因みに、その人物から魔力を得られなくなった場合、エネルギーが切れて消失する。
「あー! イライラする! 何あの悪魔憑き!」
悪魔に魂を売った奴のくせにあの敗走。
「だけどまあ、久しぶりの理性ある獲物だし、本腰を入れて狩らないとね」