あれ? どれ? 瞬勝
それは一瞬の出来事だった。
壱は一瞬で距離を縮め、フレアは魔術を生成する間もなく子供みたいに頭を撫でられていた。
「な……っ!?」
全ての人間が息を呑んだ。
「は!? オイ!? アレ!? 何だ敷の奴? あんなに強かったのか!?」
と、遊星が驚きの声を発する。
「まあな。これにこりて倉敷の敷は敷物の敷とか劣等性なのに壱とかくだらねえこと言うんじゃねえぞ」
壱はくうーと一回伸びをすると同時に手を離した。
未だ呆然とするフレアを見て、後頭部を無意識に描く。
罪悪感のようなモノが心に降り積もり、嫌な感じになる。
『勝ち』というのはここまで嫌な気持ちにさせるものなのか、とやんわり思う。
「まあ、何だ……あー俺の勝ち」
「えーと。何が起こったのかよく分かりませんでしたが……倉敷壱の勝ちです!!」
わああ!! 凄い凄い! とクリスと綾瀬とクレアが歓声を上げる。
遊星だけはこう言った。
「何でこんなつええのに……雰囲気は緩すぎるし、馬鹿だしアホなんだ……」
観覧席から言われているせいかやたら見下されている気がする。
「ああ、鞍馬は上げてくれないんだな。ま、いいけど」
いややっぱり良くない! と壱は吼える。
フレアは呆然とした態度を解いて言う。
「何なの? 今さっきの力は……?」
「ん?」
あの速い動きのことか? と、倉敷壱が尋ねる。
コクリと、首を縦に振った。
「ああ。純白の粒子を身体に染み込ませることで身体能力を上げれんだよ」
フレアは聞いているのか聞いていないのか分からない呆然とした表情で頷いた。
ЖЖЖЖЖЖ
決闘から一日たったその日からフレアは自分がおかしくなっていることに気づいた。
倉敷壱が辻綾瀬に笑いかけるとイラッとするようになったし、もっと喋りたくなった。
恐らく辻は倉敷のことが好きで、倉敷が辻に好意の笑顔を向けていることが怖いのだろう。何で?
もしくは自分にはない体験だから凄く羨ましい、ということも考えられる。でも、何で?
「よ」
目の前に倉敷壱が居た。
「きゃあ!?」
ビックリしたのか、それとも別の感情が働いたのかフレアは椅子ごと後ろにこけてしまう。
宙を舞い、床に叩きつけられると瞼を閉じた瞬間、背中に人の温かい手が突如出現する。
壱が支えてくれたのだ。
「オイ。大丈夫かよ?」
「大丈夫に決まってるでしょ!?」
フレアは恥ずかしさで思わず怒鳴り散らしてしまう。
怒鳴った、という事実にも恥ずかしくなり頬が赤くなる。
「何の用なの?」
椅子に座りなおしたフレアを見て壱は話す。
「ま、友達だし理由なんていらねえだろ?」
倉敷壱の願い――それはフレアと友達になることだった。
「つーのは嘘で鞍馬が一緒に食いたいんだって」
壱が指し示す方向にはクリスにコブラツイストをかけられている遊星の姿があった。 なぜか、その言葉がムカついた。
アンタはどうでも言い訳? と。
「あれは、嘘よ」
思わず言葉が突いて出た。
(あれ?)
は? と壱は困ったように眉根を寄せる。
「嘘って友達になるってこと? 俺のこと嫌いってこと?」
「いや、そうじゃなくて……」
そう、倉敷のことは凄く好きだ。
じゃあ何で『友達』を否定したのだろう?
つまりは……愛してる?
極論すぎるとは思ったが、頬が熱を帯びてきてそれが正解だと告げる。
そんな小説でしか知らない感情に……私が?
「あれ?」
「どれ?」
タイトルが造語ってどうなんだろう?
あと、何か注文質問などでも感想受け付けています。
注文されてもその通りにやる可能性は低いですが……