どうしろって
壱はベッドの上で何をするでもなくただぼんやりとしていた。
「助けてどうするんだ……?」
そもそも『助ける』といえるのか?
「わっかんねー!」
拳を振り上げ――ベッドの縁が吹き飛んだ。
「あ……」
力が半端に強いのも考えものである。
力。
おそらく世界でも最上位に入る強さがある壱。
しかし、それはあくまでも短期間――数十年しか保たない強さだ。
クレアをずっと守るほどに強くない。
思考がグルグルと同じ場所を回る。
そして毎回同じ場所へと着地する。
「諦めて二人の人生を歩む……か」
それから二日後、壱は退院した。
学生寮に帰るのは気が重かったが仕方がない。
「何か始めてみっかなー趣味的なものでも。ていうか旅行でも行ってみるか。粒子で飛んで行きゃいいし」
扉を開けて、久々に帰宅する。
我が家を見た瞬間、壱は呆けてしまった。
なぜなら家がボッロボロになっていたからだ。
「そう言えばクレアを攫われて無意識に魔力垂れ流してたような……」
最悪だ……と壱は後頭部を掻く。
部屋をゆっくりと片付けていく。
「何だこりゃあ?」
タンスの引き出しからはらりと落ちてきたノートに首を傾げる。
『壱さん情報』
とタイトル欄に書かれている。
「クレアの……か」
開けるか否か、数瞬迷う。
「どうしようか」
開けてしまうと心の引っ掛かりが大きくなるだろう確信がある。
けれど放っておいても引っ掛かりは消えないだろう。
更に言えばこのノートの存在をいちいち思い出してしまうこと請け合いだった。
「人生において自分が後悔しないことが最も重要なのですはい」
自分への言い訳完了。
ノートを開いた。
『今日、初めて料理を壱さんに作りました。壱さんは「ありがとう」って言ってくれたけどおいしかったのかな?』
『テスト用紙が机に置いてあったのですが、壱さんの得意科目は国語みたいです。苦手な科目は英語』
『昔の私には笑顔見せてくれてたのかな。私がちゃんと笑えてないからかな?』
そこには俺とクレアの毎日の日記とクレアの気持ちが綴られていた。
「そんな事思ってたのかよ……」
ちゃんと理解しようとしてくれていた。
一生懸命に。壱の事を。
「は、はは……」
乾いた笑い声が勝手に喉を震わす。
(俺は馬鹿かよ……勝手に記憶喪失前のクレアのことばっかり気にして。今のクレアはきっと俺のことをどうとも思ってないなんて思って)
罪悪感で瞳を曇らせた。
目の前の少女の顔を一度でも真っ直ぐに見つめたのか。
「ただのナルシストじゃねえかよ俺は!」
勝手に罪悪感を背負って、クレアの真っ直ぐな想いを直視することを避けて、思い出に浸って。
「行かねえと」
心の引っ掛かりが消えた。
クレアを助け出す――訳じゃない。
クレアの気持ちを聞きに行く。
「選ばせなきゃ嘘だろ?」
くそったれな天司のことを思い出す。
ヒーローにはなれないだの、クレアを護るだの。
「テメエに選ぶ権利なんざねえんだよ」




