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天司光臨

 老い始めた身体に直射日光は厳しい。

 ハワイアンジュースとやらを飲みながら彼はそう思った。

 隣に居る秘書が彼に言う。

「大和様。クレア以外の兵士は全て無力化されたようです」

 彼――大和はほう、と一息吐く。

 大事な商談を纏め上げた後はコレだ。

 全く人生というヤツは上手くいかない。

「私のドッペルゲンガーすらやられてしまったしな」

 しかし、と大和は微笑む。

 クレアを助け出そうと地獄。

 クレアに殺されようと地獄。

 待っているのは大和の一人勝ちだ。


жжжжжжж


 激突――そして、ビルが崩壊する。

 コンクリートが分子単位で吹き飛び、地表が抉り取られ、砂嵐のように風景を灰色へと変えた。

 舞い散る灰色の中、鮮やかな赤が存在した。

 あまりのエネルギーにより熱せられた地面の上、壊れた人形のように倒れる人間。

 全身から血が吹き出て、その血が地面に落ちるたびに摂氏一万度を超える地面により血が即時蒸発する。

『ターゲットの無力化を確認。戦闘態勢終了』

 その人間が助けたかった少女はただ一言で冷静に戦闘を終える。

 直後、少女を捕らえるガラス張りの牢獄が弾け飛んだ。

「まだ、終わって、ねえぞ……」

 動けず倒れたまま、壱は不敵な笑みを浮かべる。

 衝撃でクレアが牢獄から飛び出た。

 壱はほっとした顔で激痛に顔を歪めながら言う。

「おかえり」

 その、瞬間。

 全てが白で覆われた。

 全てが壊れ、無に還る。


「その筈だった、か……」


 怒気を孕ませた声。

 腕にはクレア。

 空に浮かび、壱を見下ろしている。

 背中には一キロはある羽。

 まるで飛行機のように大きく、白鳥のように柔らかく優雅な純白の羽。

 天司だった。

 顔の作りが人間とは違う。

 神秘的なほどに整った顔、恐ろしいほどに完璧な身体。

 お姫様を攫いに来た王子様のような完璧な景色。

 まるでヒロインと主人公だ、と壱は思った。

「ねえ……君」

 すらりと長い指が壱を指す。

「この子を助ける気があったの?」

 わずかに非難の色を含ませた声が問う。

「君は――いや、壱、貴様はこの一体の人間を粒子で守ることを優先するあまり自分の身を犠牲にした」

 壱は遠のく意識を繋ぎとめ、聞く。

「犠牲にしなければ今の爆発も防げた筈だ。俺が居なければ全員死んでいた。貴様はヒーローになどなれない」

 羽が準備運動を開始するように小さく震える。

 行く――思考するより先に直感で知った。

 彼はクレアを連れ帰りに来た天司だと。

 声を出そうとするも、遠のく意識がそれを許さない。

 思考が混濁する。

「これからは俺がこの子を護る。貴様は必要じゃない」

 それだけ言うと彼は一瞬にして壱に視界から消えた。

 遠くから、足音が、聞こえる……・

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