黒
「ちょっと!? この化け物は何なの!」
壱に抱かれながら少女は叫ぶ。
コールタールを人型に押し込めたような化け物は異常な能力を発揮し、壱たちを襲ってくるのだ。
但し――壱には通用しない。
「クレアだ……この力は間違いねえ」
クレアの力の片鱗を利用して、大和の奴は何かしやがった!
「俺以外じゃ――厳しいぞアレは」
歯噛みしながら壱は音速でクレアの元へ急ぐ。
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「はぁっ! はぁ……」
京は肩で息をしながら化け物相手に善戦していた。
速い。強い。変則的。
コールタールのような身体を自在に操り、速度は京よりほんの少し遅いくらい。力は互角と言っていいい。
しかし、それも京の体力がMAXの場合である。
さっきの戦いにより疲弊した京が勝てる見込みは『悪魔化』しかない。
なぜ、通常状態で善戦しているのか。
それはレガシーたちのおかげといえる。
共に戦い、善戦まで持っていっているのである。
但し、化け物や天才の戦いに置いて『優秀』が持つ時間はせいぜい三分ほどしかない。
「……二分か」
京は横目で仲間の疲弊具合を見て一人呟く。
「何だあの強さは……」
夜見が息を切らしながら吐露する。
コールタールの化け物はゆっくりとムチのような腕をしならせた。
「挑発する知性を持っている?」
いや、挑発しているように見えているのかもしれないと京は思い直す。
瞬間、上下左右全ての壁という壁をぶち壊し、ぶち抜き『黒』が現れた。
「な……?」
「えあ……?」
夜見やレガシーがあまりの絶望的な状況に言葉を溢した。
京は笑うしかない。
(ダメだ。全力の俺ほどの力を持つやつらが三十は居る……コイツらと今の俺じゃ勝てねえ……)
しかし。
「あくまで。今の俺だったらって話だ」
身体中のケイトスを堕天させる。
悪の感情。負の感情。
全てを――
「飲み込めぇ!」