はじまり
妄想を垂れ流ししています。
雑誌記者というのは、それはそれはハードな仕事である。何かネタになりそうだという情報が出れば朝昼夜問わず昨日飲んだ賞味期限切れの牛乳に当たりましたなんて体調にも構うことなく直行しなければならない。そこですばらしいネタにありつくことが出来れば最高なのだが、勿論毎回そういうわけにもいかず、むしろガセである時の方が多い。しかし、それにメソメソと凹む暇もなく次の情報が湧いて出る。そう、つまり休む暇がないのだ。特に僕なんかが担当してる人気ジャンル・グルメリポートなんていうのは。
「づ、がれだあぁあ…」
部屋のドアを開け、ドサッと自分のデスクに倒れ込む。あ、これ僕ですはじめまして。名前は有巣太郎。太郎は祖父がつけてくれた名前だ。といってもただ長男だからって理由なんだが。
職場は此処、「メルヘン社」。このとんでもなく乙女な社名の会社が出版する雑誌「メルヘン・ピープル」の記者をしている。担当はグルメ。本日も多数寄せられた情報を元に走り回ってきましたとも。
このグルメというジャンルは雑誌の中でも1位、2位を争うほど人気がある。たくさんの人に読んでもらえること、応援してもらえることはそれは嬉しいモノだったが、残念なことに僕は根っからのサボりたがりである。このジャンルに関われたことは光栄だけど、正直向いていないポジションだった。
向いてないポジションだって分かってるなら、何故グルメをやっているのか。それについては僕に非は皆無だ。ある日突然社長である真亜名堂に「君、食ってそう」とかわけのわからない妄想をされてしまいこのジャンルを担当することになったのだ。ほら皆無。しかし食ってそうって何だ。外見で食ってそうってお前。
このジャンルを盛り上げてきた一員として、辛いことばかりではなく勿論楽しいことも沢山あった。思い出も沢山ある。しかし僕はもうグルメ担当を続けていくことに限界をヒシヒシと感じていた。出来ることなら、ジャンルを変更したい。
そう、思っていた。
「有巣くん、ちょっといいかい」
僕に忍び寄る影。ちょっとカッコよく言ってみたがまぁ、早い話が真亜名堂だ。
彼がこの時手にしていた書類には、僕が望んでやまなかったことが記されていた。
即答でそれを受け入れた僕だったが、まさかこの選択があんな出来事に繋がっていくなんて、微塵も想像していなかった。