トラベラーズノートに夢を描く
昨日、二十歳の誕生日だった。嬉しくない。人生の半分以上をベッドの上で過ごしているから。
「真子、誕生日おめでとう。一日ズレちゃったけど、誕生日プレゼント!」
友達が病室に遊びに来てくれた。実は昨日も来てくくれたらしい。昨日は私の体調が悪く、治療を受けていたから知らなかった。
白っぽい病室の壁を見ながら、どう反応していいかわからない。友達の優花は健康そのもの。子供の頃は同じスタートラインにいたはずなのに、もうずっと前を走っている気がして。
「た、誕生日プレゼント? 開けてもいい?」
「うん! すっごいかわいいから」
中見はノートだった。普通のノートとは雰囲気が違う。洋書のようなおしゃれさがある。外国風のパスポートやチケットのイラストが華やか。微かにインクの匂いもした。
「何これ?」
「トラベラーズノートだよ。真子が旅行行きたいところ、ここに全部書いて。私が就職したら、そのお祝いで連れてってあげるから」
「え……」
優花の屈託ない笑顔を見ながら戸惑う。私、旅行なんて一度も行ったことが無い。下手したら命に関わるし。手術でアメリカに行ったことはあるが、子供の頃で記憶がない。そもそもそれは旅行とは言えない。
「私に旅行なんて……」
ネガティブな発言が出そうになったのに、優花は無視した。
「宝くじに当たった余命一年の癌患者、世界旅行して豪遊しまくっていたら癌細胞が消えたらしいよ。そんな事ってあるんだね」
「それ、プラシーボ効果でしょ。プラシーボってわかると効果ないらしいよ」
可愛げのないことを言ってしまったが、目の前のトラベラーズノート、かわいい。本当は旅行の記録を書くものだと思うが。
「行きたいところを書いてもいいのかな……」
「いいでしょう? やってみてよ」
優花は笑顔で帰っていく。そうか、別にプラシーボとか関係なく何を書いたっていいのか。
どこにしようかな。修学旅行、優花と行きたかったな。長崎の修学旅行だった。当時は今より病状が悪くて、優花からお土産話を聞くだけで精一杯で。
「ハウステンボス、行ってみたいな……」
気づくと、真っ白なトラベラーズノートに風車やチューリップの絵を描いてた。下手だ。これは風車かわからない。ネットの検索の画像を見ながら、描き直す。
「そういえばミルクセーキや角煮まんじゅう、カステラアイスが美味しかったって優花が言ってたなぁ」
そのイラストも描く。あぁ、本当に下手だ。でも退屈しない。ネットの画像を見ながら、色鉛筆で色付けしていくの楽しい。白っぽい病室にいるのに。トラベラーズノートの世界は色が溢れてる。
「優花がいってた洋館風のカフェも行きたいな。ステンドグラスが綺麗だって……」
それはネットの画像でも上手く探せない。想像だけで洋館のスレンドグラスを描いていく。目がチカチカしてきた。あまりにも鮮やか過ぎて。
「優花と旅行に行きたい」
本当の願いをトラベラーズノートに書くと、楽しくて仕方ない。この病室も色に溢れている気がする。目の錯覚だろうか。




