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うちの家族は本日も任侠日和

作者: 猫田33
掲載日:2026/07/07

「お父さん! お父さん!」


 目の前に広がっているのは組長の父と慕って集まった組員たち。いつもはうるさいくらいなのに全く動かない。


「黒亀会もこうなったら終わりだ。仁義を通す昔のカタギのやつもこれで終わりだな。最後は、組長の娘のお前だ」


 簡単に死なせないつもりなんだろうチャカを胸に押し付けた。もう充分痛みつけられて目がぼやけるし頭が朦朧とする。


「お嬢! お前ら許さねえ」


 死んだと言われたはずの若頭の声がした気がしたけどもう起きていられない。もし生まれ変わったら堅気みたいな普通の生活をして恋や勉強したかったな。

 目の前が暗くなってうとうとすると鮮烈な光りが閉じた瞼を差した。



「まぁまぁ、生まれましたよ。女の子です」

「うぎゃーあ(嘘ーー!)」


 周りがぼんやりしてよく見えないが、生まれたという言葉と背中に回された手がとても大きく感じた。


「まるで香里奈みたいな元気さだ。俺とお前が生まれ変わったんだから香里奈も生まれ変わってもおかしくねぇな」

「生まれ変わっても強面な父親と組員たちに囲まれるなんて卒倒するんじゃあないかい?」

「きゃーう?あっーば(お父さん?、お母さん?)」


 前世の名前である香里奈が出てきてまさかと思っているとものが落ちるような音と喧嘩の声が聞こえた。


「おい、倒れこむな。お前のドスが俺の背中に当たっていてぇよ」

「そういうお前こそ、今日は非番だろ」

「頭の慶事に行かないわけがない。それに盃を交わしたら家族みたいなもんだろう」


 この妙にギャグのような押し問答を聞いた覚えがあるけど、もしかして組員の三馬鹿かな。前世の家族と組員が揃っているのかな。




 生まれて早七年経ちました。前世だと七五三だから縁起がいいね。そして予感が当たって組員たちも生まれ変わってた。黒亀会in異世界って感じ。


「お嬢! 今日もかわいいっすね」

「お嬢って呼ばないでって言っているでしょ」

「カリナお嬢様すみません」

「今は辺境伯家の騎士なんだから怖がらせないようにしないとだめ」


 目の前でヘラヘラと笑っているのは、アペリティフ。身分差を考えれば馴れ馴れしいとされる距離感だが前世も今世もお目付け役で距離が近い。


「へい」

「へいじゃないわ。はいでしょ」

「アペリティフそうでござるよ」

「ギンもいい加減その変な話し方から変えよう?」

「他国育ちで訛りがぬけないでござる」


 そんなことをいいつつ前世でもその喋り方だったからワザとだ。


「カリナ、大丈夫か」

「お父さん」

「最近、子どもが行方不明になっているから見廻りをしてくる。そいつらがいるが気をつけるんだぞ」

「はい」


 今世の父は、金髪のキラキラ要素があるのに人相が悪い。まるでマフィアみたいだ。実際は、嫁と娘にとても甘く母に逆らえない恐妻家なのだが。

 



 最近、カリナの侍女に子爵令嬢のミモザがついた。子爵家の四女で結婚相手探しと結納金を稼ぐために辺境に来たらしい。ごく普通のお嬢さんなので騎士団にモテモテだった。


「お嬢様、ご機嫌よさそうですね。これ町で買ったお菓子なんでミモザさんと食べてください」

「ビーア久しぶり。この間の所は閉じたの?」


 ビーアは、女泣かせでこの間刺されてしばらく入院していた。元気になったと人好きそうな笑顔を見せ、ミモザに女性受けしそうな袋を渡すと颯爽と退散していった。


「お嬢様、閉じたとは?」

「おうちの鍵が壊れて明けっ放しだっていってたの。ねぇ、ミモザ貰ったのを食べたい」

「お嬢様、かしこまりました」


 ミモザにガゼボにお茶を準備してと伝えた。今日は、天気がよくて気温もいい感じなので屋外でのお茶は美味しいはず。


「カリナお嬢さん」

「ブラントどうしたの。騎士団は、練習中でしょ」


 前世は、泣く子も黙る若頭と言われ恐れられていた。だからだろう成人前の見習いにも関わらず騎士団では別格の扱いを受けていた。


「ちゃんと許可は取りましたよ。一番にお嬢に伝えたくて」

「私に?」

「見習いから騎士見習いになる許可がおりました」


 転生して幼くなっても変わらない笑みで報告された内容は、嬉しいものだった。


「おめでとう! もしかして最年少で騎士になったりするのかな」

「条件と試験が通れば」

「すごいね。お祝いしなきゃ」

「言いたかっただけなのでお祝いはいりませんよ。そろそろ戻ります」


 九十度のお辞儀をするとビックリする速さで戻っていった。忙しいのに時間を作って会いに来てくれたのだろうか。それにしてもカリナの居場所がよくわかったものだと思う。ブラントは、前世からカリナを探すのが上手いのが不思議だ。


「頑張ってねー」 

「おぉ、カリナ嬢ちゃん。嬉しそうじゃの。飴ちゃんをあげよう」


 飴をくれたおじいちゃんは、前世御年寄だった黒亀会のブレーンだった。今世でも父の相談役をしている。見た目は、好々爺だけど父は、母の次に怒らせないと言っていた。


「ゼクトお爺ちゃん、ブラントが騎士見習いになれるんだって」

「ブラント坊が騎士見習いにか。月日は、早いのう」

「お祝いはいらないって言われたけどやっぱり何かあげたくて。騎士関係が良いかと思うけど、何をあげたらいいのかわからないから相談にのって」


 昔から何をあげても感激してたけど迷惑にならない使いやすいものをあげたい。


「いいぞい。騎士見習いのお祝いを町に行って探してみるとよいんじゃないかのお」

「町! 行きたい」

「お嬢様、危険です。商人を呼びましょう」

「護衛を充分に付ければ大丈夫じゃわい。何よりカリナ嬢ちゃんは、この辺境伯領を継ぐから領地を知るのによいじきじゃろう。何よりわしも着いていく」


 ミモザは、不審な顔をしつつも当主に信用されるゼクト爺にそれ以上言えないようだ。


「だいたい、ヴァインが過保護すぎるんじゃ。外の何が危険なのか分からなければ将来的にカリナが困る。任せるんじゃ」



 次の日、要人護衛を兼ねた演習で騎士たちと町に行くことになった。


「今日の護衛って、アペリティフ、ビーア、ギンなの?」


 この三人組前世で三羽烏とか言われて鼻をのばしていたけどサン『バカ』ラスなのに。ちょっと不安だけど他の護衛は、威圧感を出さない用に離れたとこにいるんだって。


「ゼクト様が、若頭に祝いで贈る品だって聞いていたんで使いやすいシンプルな雑貨を置いてる店から行きましょう」

「ビーアが案内するの?」

「女の子たちに贈る品を選ぶのに店を見ることが多いんですよ。ここです。お嬢様」


 ビーアが案内した所は、表通りから一本外れた場所の雑貨店だった。前世と違い薄いガラスは、贅沢品で技術がいるため明かり取り出来る分厚く中が見えない。


「筆記用具や紙、オーダーでスタンプ作成してくれます。品質いいっすよ」

「なるほど」


 言われて入ると見た目は、確かに悪くなさそう。店主が慌てて出てきて色々見せてくれた。他にも見たいと店内をまわると刺繍がされたハンカチがあった。


「ハンカチがある。鳥の意匠のハンカチいいかも」


 ブラントは、凛々しい目をしているので鷹のイメージだ。前世も鷹目のとか二つ名をつけられていた。


「カリナ嬢ちゃん、刺繍のハンカチをブラントに贈ると練習場が大変なことになるからやめとこうかの」

「大変なことってどんなこと?」

「もちろん、若頭が親父に半ご「ハンカチは、自分で縫ってこそでござる。初めて刺繍したハンカチは、ブラント殿にあげてくだされ」


 アペリティフの口をギンが押さえて引きずっていった。カリナは、ハンカチの刺繍が幼稚園児が親に似顔絵を書くのと同じ扱いなのかと納得した。


「初めて刺繍をしたハンカチを父に贈りましたが、とても喜んでくれましたよ」

「そうなのね。ありがとう」


 他の店も見てペンを買うことして、ミモザに買いに行って貰った。ミモザ一人は危ないのでアペリティフとギンを一緒に行かせる。その間に屋台で美味しい物を食べないと!

 行った屋台には、実家の手伝いをしている非番の騎士がいた。この騎士も黒亀会の転生者だ。しのぎで屋台をしていたから上手いと自慢している。

 渡されたのは、お好み焼き串モドキだった。


「美味しい。家だとこういうの出ないよね」

「久々に食べると美味いですなぁ」


 齧り付くと甘じょっぱい醤油の香りとキャベツの柔らかくもシャキッとした食感が美味しい。ソースが欲しいと思うが前世の記憶通りなら色々入っていたから再現が難しいのだろう。


「紅生姜が欲しいですなぁ。あとマヨネーズ」

「うん、でも屋台だとマヨネーズの保管難しそう」


 冷蔵庫がなく新鮮で安全な卵の入手が難しいがそのうちなんとかしたくなる。


「お嬢ちゃん、もっと美味しいモン食いたくないか」


 いつの間にか目の前に屈強な男たちに囲まれていた。騎士たちは、どうしたのか出て来ない。


「いらない」

「そんなこと言わず。甘いのとか好きだろ? 来いよ」


 男たちは、カリナの串を持っていない方の手を無理矢理引っ張られ痛みで顔を顰めた。


「お前たちその手を離さんか。痛がっておるじゃろう」

「爺は、黙ってろ。とりあえず連れてくぞ。その爺も金を持ってそうだから連れて行くか」

「ちょっと離して! やめて」



 カリナとブラントは、よくわからない建物に連れ去られてしまった。そこには、子ども達が閉じ込められていた。

 不安そうな表情なものの怪我がなさそうで安心した。痛い思いをする子どもはいない方がいい。


「こんなにいるなんて」

「最近、子どもの行方不明が増えているという話がありましたのぉう。奴らの仕業のようじゃ」

「聞いてないんだけど」

「言っていないからのぉ」


 のほほんと笑うブラントに対してカリナは、自分がしっかりしなくてはと気合を入れていた。


「お姉ちゃんたちどこの人? お金持ち?」

「お姫様みたーい」

「お姫様が捕まるわけがないだろ」


 子どもたちは、先ほどまで不安な顔をしていたが、突然現れたカリナ達に興味津々なようだった。不安な顔よりずっといい。


「お姫様ではないけれど、この領地の領主の娘なの。あなた達は、どこから来たのかしら」


 聞いてみれば町の子ども達ばかりのようで隣国の子は捕まっていないようだ。隣国と面しているため隣国の人間も出入りするのだが、国が主導でなくとも国際問題がこわい。


「助けが来るはずだからもう少し私とお話しましょう」


 子どもたちは、カリナがどんな生活をしているのか聞いてきた。ゼクト爺がこの間猫を助けようとして木からカリナが降りられなくなった話をした。

 いたいけな猫ちゃん助けたのに私の心のライフはゼロよ。


「他にはのぉ」


 調子に乗って個人情報を垂れ流すゼクトを止めたいが、元気がなかった子どもたちの目に光が戻ったのを見れば止められなかった。

 戸から漏れ出す光が赤く染まる頃、外が騒がしくなった。良い方で考えれば騎士団が場所を特定して交戦中か。悪い方なら騎士団に居場所を特定される前に逃亡しようとしているかもしれない。


「ゼクト」

「わかってますぞ。お嬢様」


 ゼクトは、杖に手をかけて扉に視線を送る。男たちの声が聞こえて扉が音をたてて開かれた。


「いた! 他の奴は捨ててコイツだけ連れて行こう。身代金と代金の二重取り出来る」


 あの時声をかけてきた男がカリナの手を掴もうとした。しかしカリナにとって聞き慣れた発砲音がして男が腕を押さえた。


「お嬢さんに手をだすのは許せんのぉ」


 杖の途中が折れ中の空洞から煙が出ている。


「なんで杖がチャカなの。聞いてないわ」

「誰かを騙すなら味方からですぞ。会の者たちは、正直者過ぎますゆえ。ホッホッホ」

「この爺魔法使いか。ふざけんな」


 男がゼクトに掴みかかろうとすると部屋が真昼のように明るくなった。


「騎士団だ! 完全に包囲している。手を上げ投降しろ」

「ブラント!?」


 見習いのはずのブラントがなぜ最前にいるのだろう。


「お嬢さん無事ですか」

「見習いなのに危ないでしょう」

「今一番危険な目に合っているお嬢さんでしょう。俺は、今度こそお嬢さんを守るって決めたんです」


 ブラントは、男たちに斬りかかるとあっという間に制圧した。なぜこんなに強いのだろうか。


「カリナお嬢様、辺境騎士団参上しました」

「お前たちたるんどるんじゃないか。やればこんなに早く制圧出来とるのに」

「若旦那がお嬢様がこっちにいる気がするって言って突っ走ったっす」

「なんでわかるのか怖いレベルでござる」


 ちゃっかり騎士団の中に三馬鹿が混じっていた。それにしてもなんとなくで場所がわかるブラントがビックリ過ぎる。


「…お前たち元気が有り余っているようだな。早く犯人たちを連行しろ!」

「へい、若旦那!」


 騎士達は、昔の癖で動いているがブラントはまだ見習いのはず。すっかり立場が逆転していた。

 ゼクトを襲っていた男は、縄で縛られながら悪態をついている。元気が有り余っているようなので丁度良い。


「アペリティフ、靴を脱がして足を押さえてくださいな」

「えっ、お嬢。アレをするんですかい。俺は、見てられねえっすよ。あぁ、恐ろしい」

「拙僧もお嬢にアレをされるとちびりそうになるでござる」


 屈強な騎士が顔を青くしているため何が始まるのかと先ほどまで元気だった男の顔色も青くなっている。


「うちの領地で散々暴れてくれたみたいじゃないですか。覚悟なさい」

「ひぃぃぃっ」


 小屋から男が必死に懇願する声と笑い声が響き渡った。


「ひっ、ひぎぃ。やめてくれ。あはっ、くすぐるな。ギャハハ」

「あなたたちに誘拐を命じた人物を言いなさい」


 カリナは、三馬鹿のやらかしお仕置き用の羽を使い足の裏を擽っていた。三馬鹿は、男を見張らねばならないのに思わず顔を背けてしまい、同僚の冷たい視線でまた顔を戻すことを続けていた。


「言わないとずっと続けるわ」

「知らないっ。本当に知らないんだ。がははっ。飲み屋で、フードを被った奴に依頼された」

「はっ、はっ、はっ! それはこいつのことだな。怪しいから捕まえて正解か」


 手足を縛られたフードの人物をヴァインが連れてきた。自害防止に猿ぐつわまでさせている。


「そいつでさぁ。お前のせいで酷い目にあったぞ」


 フードの男は、男に文句を言っているようだがくぐもってわからない。


「こいつ共々フードのやつも連れて行け。全員重要参考人だ。足切りさせるなよ」

「へい、親父」


 捕まえた者たちは、詳しく取り調べるため牢に入れるようだ。


「ガキンチョたちは、少し痩せてるが悪くないな。飯をやって親を探してやるか。ん? カリナやたら見られるんだがもしや怖がられているか」

「ゼクト爺の教育の賜物よ」


 任侠の話を聞いてかっこいいと言っていたところにヴァインが来た。そのせいで子どもたちは、ヴァインを憧れをもったように見える。前世はともかく今世は、領主なので憧れる分には問題ないかもしれない。

 ヴァインは、ゼクトを訝しげに見たが話すつもりもないようで黙って微笑んでいる。


「お嬢にお怪我がないようでよかったです。俺、お嬢がまたいなくなったら」

「おーい、ブラント。騎士見習いになりたかったら一旦黙るんだ。いいな」


 ヴァインは、ブラントの服の襟を掴むと自分が乗ってきた馬に乗せた。続けて自分も馬に乗る。


「引き続き見廻りをする。ウチのシマ荒らした奴がどうなるかわからせねぇとなぁ」


 ヴァインが馬上でいうと騎士団たちはもちろんですというのだがなぜかガラが悪い。ガラが悪くても優しい心根の騎士団員ばかりなのにと少し悲しい。

 カリナは、子どもたちと一緒に荷馬車で領主の館に戻ることになった。子持ちの騎士が子どもたちが怖がらないようにと配慮したようだ。

 そしてその荷馬車にはゼクト爺も同乗しており、血なまぐさい昔話をしている。それでも悪さをしていた連中を蹴散らしたりしているので正義の味方のように思えなくもない内容だ。

 領主館に着くと子どもたちは、侍女やメイドに任せ部屋に戻った。カリナも今日は、疲れたので侍女に世話を任せて早々にベッドに入る。


「みんな無事でよかったわ」


 今世は、前世よりも悪意が蔓延りやすい。カリナが安心して過ごせるのは、辺境伯令嬢という立場だから守られているに過ぎない。自分の身も大事だがまた会えた家族と仲間たちを守れるようになりたいと願い眠るカリナだった。



後日、刺繍入りハンカチを父ヴァインに渡すと家宝にすると言い出したので母が扇子で頭を叩いていた。そしてブラントの騎士見習い祝いは、銀色の鷹の飾りがついたペンを贈りとても喜ばれた。


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