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二つのきらきら【AI作品】

掲載日:2026/01/21

あおいの家は学校のすぐ隣にある。


犬のソラを散歩に連れていくとき、家を出てすぐに学校の前を通る。海沿いの道をぐるっと回って、また学校の前を通って家に戻る。いつもそのルートだ。


***


玄関を開けると、ソラが尻尾を振って飛びついてきた。


茶色い毛がふわふわと揺れる。黒い瞳がまっすぐにあおいを見上げている。


リードをつけて、外に出る。


午後の日差しが眩しい。


すぐ隣の学校の校庭が、フェンス越しに見えた。


鉄棒に誰かがぶら下がっている。


波多野くんだ。


逆上がりの練習をしているみたいだった。鉄棒に足をかけようとして、何度も滑り落ちている。


昨日の体育の授業。


クラス全員で逆上がりに挑戦した。みんな、一人ずつ順番に。できる子はすぐにくるっと回った。できない子は何度も挑戦していた。


波多野くんだけが、最後までできなかった。


前の席だけど、あまり話したことがない。朝の挨拶くらい。良くも悪くもない。ただの同級生。そういう印象。


ソラが引っ張る。


あおいは学校を後にして、海の方へ歩き出した。


***


海沿いの道に出る。


アスファルトの道が、まっすぐに伸びている。右側は防波堤。左側は畑と民家。


潮の匂いがした。


引っ越してきたばかりの頃のことを思い出す。


お父さんの仕事が在宅勤務になったのは、何年か前だった。リビングでパソコンに向かって仕事をするお父さん。会社に行かなくてよくなったお父さん。


「地元に帰りたいな」


お父さんがそう言っていたのは覚えている。


この島が地元らしい。お父さんが子供の頃に住んでいた場所。


でも本気だとは思っていなかった。都会で生まれて、都会で育った。あおいにとって、地元は都会だ。


それなのに本当に引っ越してしまった。


都会から、この島へ。


嫌だった。


友達と別れるのも嫌だった。知らない学校に行くのも嫌だった。


何もない場所。


そう思っていた。


少し歩くと、ソラが突然走り出した。


右手の防波堤が途切れている。そこから砂浜へ降りる道が見える。ソラはそれを見つけたみたいだった。


あおいは引っ張られて、一緒に駆ける。リードが手に食い込む。ソラの茶色い毛が風になびいている。


防波堤の切れ目を抜けて、砂浜に降りた。


ソラが何か見つけたみたいだった。鼻を砂につけて、匂いを嗅いでいる。


きれいな貝殻。


白くて小さくて、つるつるしている。ソラが鼻で突いている。転がる貝殻。また追いかけるソラ。


あおいはしゃがんで、貝殻を拾い上げた。


手のひらに乗せる。軽い。


光に透かすと、薄く青い色が見えた。内側には細かい筋が走っている。自然が作った模様。


ソラが嬉しそうに吠える。


「きれいだね」


あおいは貝殻をポケットに入れた。


ソラがまた走り出した。


波打ち際に向かって。足跡が砂に残る。あおいの足跡と、ソラの足跡。


***


海岸を歩く。


波が静かに寄せては返す。


白い波が砂を撫でる。また引いていく。また寄せてくる。


都会に比べて何もない。


引っ越してきたばかりの頃は、そう思っていた。


コンビニもない。ゲームセンターもない。映画館もない。本屋も小さい。友達もいない。


何もない。


でも…。


海が広がっている。


どこまでも青い海。水平線が遠くに見える。空と海の境目。


水面がきらきらと光っている。


太陽の光を反射して、無数の光の粒が踊っているみたいだった。波の一つ一つが光を跳ね返す。きらきら。きらきら。


沖の方に、のり養殖の施設が見える。


黒い柱が規則正しく並んでいる。海の中に立っている柱。その間にロープが張られている。島の人たちが海で働いている証拠。


都会にはなかったもの。


ここにしかないもの。


***


小さな漁港が見えてきた。


白い灯台。青い船。茶色い網。


女の子の友達ができたのは、つい最近のことだ。


クラスの隣の席の子。みお。明るくて、よく笑う子。


「あおいちゃんって、都会から来たんだって?」


最初に話しかけてくれたのは、その子だった。


「うん」


「すごいね。私、都会に行ったことないんだ」


「ここも、悪くないと思うよ」


そう言ったら、その子が笑った。


「ありがとう」


それから友達になった。


学校にも、島にも、少しずつ慣れてきた。


朝、学校に行くのが少し楽しくなった。


漁港には、いつものおじさんがいた。


船の手入れをしている。ロープを巻いたり、網を直したり。日に焼けた顔。しわの深い手。


「やあ、あおいちゃん」


おじさんが手を振った。


「こんにちは」


あおいも手を振り返す。


「今日もいい天気だね」


空を見上げるおじさん。雲一つない青空。


「はい」


「ソラも元気そうだ」


ソラがおじさんに駆け寄る。おじさんがソラの頭を撫でた。ソラが嬉しそうに尻尾を振る。


「また来るよ」


「ああ、気をつけてな」


短い挨拶。おじさんはまた作業に戻った。


ソラが漁港の匂いに興味を示している。魚の匂い。網の匂い。海の匂い。潮風と、船の匂い。


あおいは漁港を後にして、また海沿いの道を歩き始めた。


来た道を戻る。


アスファルトの道をまっすぐ進む。右手の防波堤の向こうに、海が見える。まだきらきらと光っている。


畑と民家を通り過ぎる。やがて、学校の校舎が見えてきた。


***


学校の前に戻ってきた。


フェンス越しに校庭が見える。


波多野くんが、まだ鉄棒にいた。


額に汗がきらきらと光っている。


手が真っ赤になっている。何度も何度も鉄棒を握っているから。


波多野くんは一度、手を止めた。息を整えている。それからまた鉄棒に向かった。


胸がどきどきした。


思わず目を逸らした。


どうして?


足が止まる。


どうして目を逸らしてしまったのだろう。


波多野くんは黙々と練習を続けている。誰も見ていない校庭で。一人で。


額の汗が、太陽の光を受けて、きらきらと輝いている。


あおいは立ち止まったまま、何かを考えようとした。


でも言葉にならない。


ソラがあおいのズボンを引っ張った。


早く行こう、と言っているみたいだった。


あおいはソラに引っ張られて、歩き出した。


家の方へ。


波多野くんの姿が、視界から消えていく。


でも、あの汗のきらきらがまだ目に残っていた。


***


おしまい

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