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第7話 治療費そして続く違和感

真守まもりを車に乗せて、病院へ向かう。


真守まもりは助手席で、シートに深くもたれていた。

窓の外を見ているけれど、焦点が合っていない。


「大丈夫?」


生人いくとが聞く。


「うん……ちょっと気持ち悪いだけ」


その声も、いつもより小さい。


病院に着く。

拍子抜けするほど静かだった。


待合室には、数人。

テレビの音も小さく、時計の秒針の音だけがやけに目立つ。


「……空いてるね」


「ね」


受付を済ませて、少し待つ。


「ありがとね」


真守がぽつりと言う。


「連れてきてくれて」


生人は、すぐに返す。


「当然のことしてるだけ」


真守は、それ以上何も言わなかった。


名前が呼ばれる。


「じゃあ、検査してくる」


立ち上がるとき、少しふらついた。


「大丈夫?」


「大丈夫」


「……頑張ってね」


「うん」


短いやり取り。

それでも、生人の胸は落ち着かなかった。


一人で待つ時間は、長い。


時計を見る。

スマホを見る。

何度も、同じことを繰り返す。


やがて、呼ばれた。


診察室に入ると、医師が画面を見ながら説明を始める。

専門用語は少ない。

でも、内容は重かった。


「脳の一部に、特殊な損傷があります」


真守が、少し身を強張らせる。


生人は、すぐに聞く。


「具体的には、どういう状態なんですか?」


医師は、落ち着いた声で続ける。


「日常生活は送れます。

 お薬を毎日飲んでいれば、問題ありません」


生人は、ほっとしかけて――

次の言葉で、止まる。


「ただ、そのお薬が高額でして」


一拍。


「月に、240万円ほど必要になります」


生人の頭が、一瞬、真っ白になる。


「……月に?」


「はい。

 それを、5年間続けていただく必要があります」


数字が、現実味を持って落ちてくる。


240万円。

5年間。


医師の声は、変わらない。

淡々としている。


生人は、真守を見る。

真守は、何も言わない。


考える時間は、与えられなかった。


「……分かりました」


それしか、言えなかった。


病院を出る。


処方された薬を飲んでも、

真守の顔色は、あまり良くならない。


帰りの車の中。

静かだ。


「……ごめんね」


真守が言う。


生人は、すぐに言い返す。


「そんな謝ること、ひとつもない」


声が、少し強くなる。


「エタフロで稼げばどうにでもなる」


「……」


「楽勝だよ」


自分に言い聞かせるみたいに、続ける。


「すぐに稼げる。

 俺だったら、できる」


嘘じゃない。

でも、楽じゃない。


それも分かっている。


それでも、生人はハンドルを握る。


「絶対に、真守を助ける」


それだけは、揺るがなかった。


少し走ってから、

生人は、また口を開いてしまう。


「……なあ」


「なに?」


「なんかさ」


言葉を選びながら、続ける。


「現実なのに、現実じゃない感じしない?」


真守が、こちらを見る。


「まるで、VRの中にいるみたいっていうか」


一度、息を吸う。


「エタフロの中で会話してるみたいな違和感、ない?」


次の瞬間。


「なに言ってるのよ!」


真守が、急に大きな声を出す。


ぽん、と肩を叩かれる。

力は弱い。


「急に変なこと言わないで」


声は、いつもの真守だ。


生人は、黙る。


なんで、また聞いてしまったのか。

自分でも、よく分からない。


違和感も、理由が分からない。


ただ、

この現実が、どこか薄い。


それだけが、胸に残っていた。

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