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第4話 洞窟で稼ぐ

鉱脈の洞窟は、落ち着いた場所だった。


奥まで来ると、モンスターの湧きも一定で、

鉱石も取り切られていない。

生活職で動くには、ちょうどいい。


いくとは、壁際に簡易精錬炉を置いた。

さっきまで集めていた鉱石を、まとめて入れていく。


「ここ、当たりだね」


声が、洞窟の空気に混じる。

少し離れた場所で、まもりがモンスターと向き合っていた。


「うん。精錬もしやすい」


「じゃあ、わたしは掃除係で」


軽い調子でそう言って、まもりが動く。

引き寄せられたモンスターが、次々と消えていく。


いくとは、その様子をちらっと見る。


一緒に戦えたらよかったな、と思う。

でも、それはもう仕方がない。


今は、これが自分の役割だ。


精錬は、順調だった。

いつもより失敗が少ない。

インゴットの純度も、安定して高い。


「またいいやつ?」


「たぶん。今日は調子いいかも」


「いいね。そういう日、あるよね」


まもりは楽しそうだった。

戦いながら、洞窟の中を回っている。


精錬炉が、ひとつ反応する。

いつもの出来上がり。


次も、同じ。


その次だった。


――ピカーン。


洞窟の中で、少しだけ違う反応が走る。

いくとは、思わず手を止めた。


「……ん?」


精錬炉の中から、鈍く光るインゴットが現れる。

色が深い。

重さも、感覚的に違う。


「え、なにそれ」


まもりが寄ってくる。


「たぶん……アダマンタイト」


「まじ?」


「うん。最高素材のやつ」


少しだけ、胸の奥が弾む。

大げさじゃない。

でも、確かに嬉しい。


「運、引いた感じ?」


「そうだと思う。こういうのがあるから、生活職やめられないんだよね」


「わかる。ガチャじゃないのにガチャ感ある」


表示を確認する。

相場は、だいたい3万円。


「……これ、3万円くらい」


「生活職で?」


「うん」


まもりは、少しだけ目を見開く。


「それ、普通じゃないよね」


「たまたま、だと思う」


「たまたま多くない?」


いくとは笑って、

そのまま公式RMTマーケットに出品する。


迷いはない。

こういうものだ。


続けて、他のインゴットも出していく。

高純度。

売れやすい。


「どれくらいになりそう?」


「えっと……」


いくとは計算する。


「合計で11万くらい」


「……11万?」


「手数料あるから、実際は10万いかないけど」


少し、間が空く。


「それ、一日だよね」


「うん。今日の分」


「……やば」


まもりは、素直にそう言った。


「攻略wikiとか見ても、そんな人いないよね?」


「見たことない。生活職でここまでって」


「じゃあ、いくとが変なんだよ」


「変って言われると困る」


「褒めてる」


まもりは笑う。


洞窟の中で、またモンスターが湧く。

まもりが対応に戻る。


いくとは、次の鉱石を精錬炉に入れる。


今日は、まだ時間がある。

鉱石も、残っている。


お金は、静かに増えていく。

でも、実感はない。


ただ、

この作業が楽しい。

この流れが、心地いい。


「ねえ」


まもりの声が、意識に届く。


「このゲームさ」


「うん」


「こういう遊び方もできるの、いいよね」


いくとは、少し考えてから答える。


「うん。飽きない」


精錬炉が、また反応する。



精錬がひと段落したところで、いくとはふと思い出したように聞いた。


「まもりのドロップはどう?」


少し離れた場所で、武器を収めていたまもりが首をかしげる。


「んー……いつも通り」


「いつも通り?」


「RMTに出せないやつばっか。素材とか、消耗品とか」


「そっか」


「だからね」


まもりは軽い調子で続ける。


「普通に村の雑貨屋のNPCに売る」


「即売り?」


「即売り。ゲーム内通貨も大事だからねーっ」


そう言って、少し胸を張る。


いくとは頷いた。

それも、正しい。


生活職で回していると、

RMTばかりに目が行きがちになるけれど、

ゲーム内通貨がなければ、装備更新も、移動も、拠点利用も回らない。


「ちょっと休憩しよ」


まもりがそう言って、

いくとの隣に腰を下ろす。


洞窟の奥で、少しだけ時間が緩む。


「ねえ」


まもりが横を向く。


「超大型ボスのレイド、行く?」


いくとは一瞬考える。


「……俺一度も、いいの出たことないんだよね」


「知ってる」


即答だった。


「私はあるけど」


得意げな声が、意識に混じる。


「デスドラゴンの心臓」


「はいはい」


「ちょっと、はいはいはないでしょ」


「忘れてないよ」


いくとは苦笑する。


「あれでRMT210万円でしょ」


「そうそう」


まもりは満足そうだ。


「あれで私たちの車、買ったんだから」


「それ、何回も言うよね」


「一生言う」


超大型ボスのレイドは、特別だ。


一度でもダメージを与えれば参加判定。

その場にいた全員が、報酬の宝箱をもらえる。


人数は関係ない。

強さも関係ない。


ただ、

「そこにいた」

という事実だけが残る。


その中でも、

デスドラゴンの心臓は別格だった。


誰もが名前を知っている。

誰もが一度は夢見る。


「それから、結局どうなの?」


いくとが聞く。


「最近」


「最近?」


「いいの、出てる?」


まもりは少し考えてから、肩をすくめる。


「ううん。あれ以来、ぜんぜん」


「だよね」


「でもさ」


まもりは前を見たまま言う。


「出ないからやらない、っていうのも違うじゃん」


「まあ」


「前線、楽しいし」


それは、いくとにはない感覚だ。


周りを見ると、

洞窟の外に向かって動くプレイヤーが増えている。


重装備。

大型武器。

騎乗生物を呼び出す気配。


「あ」


まもりが言う。


「今日、湧いてるね」


「デザートドラゴン?」


「うん。砂漠のほう」


まもりは、少しだけ視線を上げる。

行きたそうだった。


いくとは、その様子を見てから言う。


「……じゃあ、行こうか」


間があった。


次の瞬間。


「うん!」


即答だった。


嬉しさが、隠れていない。


「決まり。行こ行こ」


「また、前線?」


「もちろん」


「俺は、いつも通り一発だけ当てて、あとは見学だけど」


「それでいいじゃん」


「生活職だし」


「それがいくとでしょ」


洞窟の外に出る。


空気が変わる。

視界が開ける。


まもりが、自分の馬を呼ぶ。


二人乗り。


「はい」


手を差し出される。


「ありがとう」


いくとはそのまま、後ろに乗る。


砂漠地帯へ向かうルート。

遠くに、集まっていくプレイヤーの流れが見える。


「トップ層、多いね」


「今日は特に」


「まもりも、トップ層だけど」


「混ざってるだけだよ」


そう言いながら、

前に出るときの気配は、やっぱり違う。


いくとは、後ろからその背中を見る。


いつも自分は、短剣で一度切り付けて、

あとは遠くから眺めるだけ。


それでいい。


それでも、

この流れに乗っていることが楽しい。


砂漠の向こうで、

デザートドラゴンの気配が、強くなっていく。


「今日も、出ないかな」


まもりが言う。


「どうだろ」


「でもさ」


少しだけ、声が弾む。


「レイドボスのドロップガチャはやめられない!」


いくとは、黙って頷いた。

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