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第1話 エターナルフロンティアオンライン

丘の上に立つと、風が一気に吹き抜けた。

足元の草が揺れて、その向こうで草原が波みたいにうねる。

さらに遠く、川が光っていて、森の境目がぼんやりと霞んでいる。


「……相変わらず広いな」


フルダイブ型VRゲームの世界は、いつも少しだけ現実より遠い。

歩こうと思えば、どこまでも行けそうで、行かなくてもいい場所が無数にある。


俺のやっているこのゲームでは、生活職は基本的に不遇だと言われている。

戦闘が主役の世界で、採取や制作、釣りはスローライフ用の趣味の範囲だ。

それなのに、俺はその“不遇”な生活職だけで、なぜか毎月まとまった金を稼げていた。


「またそんなとこで突っ立ってる」


背後から、少し高めの声がかかる。


振り向くと、斜面を登ってきた女の子がいた。

軽装で、武器らしいものは持っていない。

慣れた足取りで、俺の隣まで来て、同じ景色を眺める。


「景色見るの、ほんと好きだよね」

「戦闘職っぽくないっていうか」


「生活職だからな」


「はいはい、不遇職さん」


笑いながら言われる。

からかっているけど、悪意はない。


斜面を下りながら、俺は薬草を籠に入れる。

特別な場所じゃない。誰でも知っている群生地だ。


「今日なにするの?」

「まだ決めてない」

「それ、またその答え?」


少し呆れた声。

でも、隣を離れない。


少し歩けば鉱石が顔を出し、川の音が聞こえてくる。

森に入れば木を切れるし、街に戻れば制作も調合も錬金もできる。


「生活職って、そんな何でもできたっけ?」

「エタフロは、そういうゲームだから」


「それで全部済ませるの、ずるくない?」


街に戻ると、制作エリアは相変わらず静かだった。

加工台に素材を並べると、彼女は少し離れて覗き込む。


「また作るの?」

「作る」

「ほんと毎日それだね」


出来上がったアイテムを確認する。

性能は平均より少しだけいい。

ほんの少し。

でも、失敗しない。


「……また良品」

「なんで毎回それ出るの?」


「知らない」


マーケットに出品する。

相場より、ほんの少し安く。


少しして、通知が鳴る。


「え、もう?」

「早くない?」


「売れた」


「いや、早すぎでしょ」


高額じゃない。

でも安定して売れる。

それで毎月の生活が回っている。


「生活職でそれって、普通におかしいからね?」

「自覚ないでしょ」


「ない」


「だと思った」


草を取って、木を切って、作って、売る。

ときどき釣りをして、気分転換する。


派手じゃない。

最強でもない。


でも、この世界は広くて、触れるものが多い。


「で、次どこ行くの?」


彼女は先に歩き出しながら、振り返る。


「決まってないなら、ついてくから」


俺は遠くまで続く草原を見渡す。


「……じゃあ、適当に」

「それが一番でしょ」


風が吹いて、草が揺れる。


答えはまだ決まっていない。

それでいい。


エタフロは、そういう世界だ。

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