13話 再会(ただし、いけ好かない出会いも付属していたとする)
俺が城の庭……いや、鍛錬場に降りたとき、他の兵とすれ違う。
今回の反乱を治めた多くの兵たちは、疲れがにじんでいたが俺を見ると歓声を上げた。
「王妃様だ!」「やっぱりかわいいよな」「わざわざ降りてお出迎えを!?」
「さすが次期聖女様だよな」
黒の国の兵のほとんどは元々ただの民。百何人かはメイカが革命をしていた時代に従っていた人間だといっていた。
とすれば、王妃としての俺の人気はやっぱりそこそこあるものなのかもしれない。
俺は兵たちに「鎮圧おつかれさまでした、お怪我はありませんか」と言いながら手を振る。
それだけで少し男どもの野太い声が上がるのだから、俺の形だけはいい女顔も便利なもんだ。
「レオニス殿、ここにいらしたんですね。部屋で待っていてくださればよかったのに」
兵たちに挨拶をしていると、少し駆け足でメイカが寄ってくる。
俺に歓声を上げていた兵士たちは、王の登場に色めき立つ。お前らさっきまで一緒に鎮圧してたのに何だその反応。
その時、俺の耳元で知っている声がした。
「王妃様!ほら王サマにも。ずっとあんたのこと恋しがってたんだぜあいつ」
「うおっ。お前、じゃなくてそのお声はライユ様?」
「素でいいぜ。今は魔法で音を聞こえなくしてあるし、俺の姿も隠してる!それにライユでいい。華の国一緒に行った仲じゃねーの」
俺の背後にいつの間にかライユがいて、耳元でささやく。
目線だけ背後にやると、いたずらそうな笑顔で俺を見下ろしていた。
魔法の影響で周囲の兵士には見えていないようで、気づいていない。能力の無駄遣い過ぎないか。
だが『暗躍のライユ』ってのは伊達じゃない、気配もなかった。
やっぱり、武力に使いやすい黒魔法の優秀な使い手だ。
「おねがい!オレらこれから会議なんだけど、あんたのお出迎え+サービスがあればあいつもご機嫌だから」
「は?サービスっても、何すりゃ。言っとくけど俺に脱がせたりするなよ」
「そんなことしたらメイカが気絶するわ。やってほしいのはな……」
ライユが俺の耳元で指示を出して「んじゃ宜しく!」と言って消えていった。
その直後にメイカとガエンと思しき男が俺の前にやってきたから、逃げたなあいつ。
そしてライユの施していた黒魔法の気配も霧散している。
ということは、今周囲の兵たちには「国王と王妃の感動(笑)の再会」が始まると期待させてるわけで。
今この時、俺は美しく穏やかで、清らかな力を持つ「王妃」なわけだ。
「よかった、ご無事でしたか。私がいない間に何かあったらと心配していたのですが」
黒い鎧のそこかしこが傷つき、本人の顔にも土埃がついている。
見える範囲に怪我はなさそうだけど、どうせ魔法での鎮圧をして消耗しただろうに。
なんとも俺に過保護な王様に、俺はゆっくり距離を詰める。
「こちらは問題ありません。大変だったのはあなたでしょう?よく戻ってくださいました」
王妃モードの俺は、そのままメイカの胴体に腕を回して抱き着く。
硬ってぇ鎧は本人の肉の厚みなんて感じさせないから、効果があるかもわからん。
だけどライユが指示した「サービス」だ。
(メイカにハグしてやってくれよ!あいつ、いつもそれで安心してたから)
野次馬をしていた兵たちの歓声が聞こえる。
どうやら、周囲にとっても良い夫婦アピールになってる。
だが、メイカからの反応が何もない。
(しくじったか?男にいきなり抱き着かれるのは嫌だよな)
すぐにメイカから体を離し、彼女の顔を見る。
が、それは叶わなかった。
「ガエン、お前なにをする」
「おや、大好きな王妃が見られないで不服かい?悪いけど、王様らしくメイシュウ王には威厳を保ってほしいんだけどな。
忘れるなよ、メイシュウ。お前は黒血王としてまだ緩むべきじゃない」
メイカの顔は、鎧兜に閉じられて見えなくなっていたからだ。
ガエンが即座に閉じて、兵たちに見られないようにしたようで。
そしてそいつは、俺を見下ろして膝を折る礼をした。
「お初にお目にかかりますね、ボクはガエンと言います。黒の国を建国した王の三傑、彼を支える頭脳と自負しております。
ずっと遠征でして、結婚式にも出られず申し訳ございませんでした」
そう俺に笑いかけるガエンの態度、顔、声を感じたときに思った。
メイカには少し物言いがきついのは、仲間だったからだろう。わかる。
三傑として遠征があって、だけど初対面の俺にも膝を折る礼節がある。それもいい。
兵たちからも「ガエン様!」と声が上がるから、慕われている。理解した。
黒魔法を使うことで偏見はあるだろうが、生来の顔の良さと物腰の柔らかさできっと女受けもいいだろう。うん。
(だけど、俺こいつ嫌い!なんかいけすかねぇ!!)
何が嫌とかじゃない。直感で気に入らねぇ!
何がダメなのか俺にもわからん!
(今は押さえろ、今の俺は王妃だ。ちゃんと王妃らしく、聖女っぽく。長年次期聖女の影武者やってたんだ、余裕余裕)
もはや意地だ。
女のフリは好きじゃない。だけど、他人の目があって『王妃』の俺があからさまに態度に出せるわけない。
メイカに王妃をやるって言ったのは俺だ。
気に入らなくても、言ったことは守る。
それが義理ってもんだ。
俺は、ガエンに顔を向けた。
生まれながらに持った、女々しくて儚そうで、花の妖精とまで言われた妹と同じ顔だ。
面の皮の下は、真逆だけどな。