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12話 三傑(ただし、伝聞であるとする)

「三傑は陛下の幼馴染のようでですね。ずーっと陛下のおそばで守り、共に戦い、そしてこの国の柱のように今は働いてくださっているのですよぉ」

「あ、そう」


三傑の話をしだすばあやは、顔色があからさまに良くなった。

元が悪かったわけじゃない。ただ、興奮気味?なんか「さあ聞いてください!」な感じ。

これは長くなるぞと覚悟した。妹も聞いてほしい話をするとき、イキイキしてたからな。

話し振ったのは俺だけど。


「二つ名もあるんですよ!『暗躍のライユ』『謀略のガエン』『守護のシュウラン』!」

「思ったより普通だな。てかライユってあのお調子者の」

「そうです!華の国へ三人で行ったと伺っていますよ。実に腕が立つんだとか!ばあやはよく知りませんがねぇ」

「ふ~ん、あいつやっぱりだったか。やけに拘束魔法がうまいと思った」


軽そうな見た目のあいつが黒魔法を得たなら少し合点がいく。

メイカほどではないが、色素が少し強い肌に、籠手をずっと着けていた。

武闘派なのかと意外に思ったけど、攻撃に慣れてなきゃ、誘拐された俺に迷いなくさらっと強力な拘束かけるわけもない。

華の国訪問は、三傑の一人を動かすほどの案件だったわけだ。

俺の護衛のためにメイカが過保護発動した可能性もあるけど。


「そしてガエン様!確か、今回は陛下とともに凱旋されますよ。レオニス様はあったことはないですよね」

「そうだな。名前も初耳」

「彼はかっこいいですよー!ばあやの『推し』ですので!」


やる気をさらに出したばあやは、椅子から立ち上がる。

大丈夫かそんないきなり動いて。若くないんだから関節とか痛めそうだ。

そんな俺の心配をよそに、熱量あるプレゼンを繰り広げるばあや。


「彼は頭脳で陛下をお助けし、被害を最小限に抑えるように陛下に進言します。

陛下が防御に優れている黒の国を落として即位できたのは、彼が効果的に兵を操って誘導したからとも言われています。

最終的に攻め落としたのは陛下ですが、できるだけ死傷者は出したくないと仰せの陛下の望みを叶えようとされる賢人!」

「ばあや、すげー喋るじゃん」

「あっ、おほほ……お恥ずかしいところを見せてしまいましたね」


俺に指摘されて顔を染めるばあやは、ゆっくり腰を下ろす。

なんだかその姿は若い娘みたいで、心が若いのは健康の秘訣か?なんて余計なことを思う。

俺はこの国の人間じゃない。

だから、この国の民というのはばあやしか知らない。

結婚式で、メイカは貴族相手に冷たい視線にさらされていた。

この国を奪って即位したなら当然。

でも、そいつらを慕う人だっているんだ。

華の国で、俺たちを案内してくれたおじさんみたいに。


「なんか、三傑って人気なんだな」

「貴族たちは嫌いますがね。ですが陛下が侵略した理由は『苦しむ民を開放するため』ですので、民衆からの人気もありますよぉ」

「ふ~ん、あいつそんな大義掲げてたんだ」


誇らしげに語るばあやは、いったいメイカの何を見てきたんだろう。

何も語れない俺は、あいつの何を知ってるだろう。

知り合って一か月しか経っていないんだ、仕方ないのはわかっている。

だけど、女の身で俺を守ると宣言した奴に、報いるだけのことを俺はできていない。


「じゃあ、最後の一人は?」

「死にましたよ」

「は?死んだ?」

「ええ、守護のシュウランはこの国に陛下が即位する直前に。ですので、この国の民にはあまり知られていませんね」

「ばあやは知ってるだろ」

「ばあやは陛下と三傑を箱推ししておりますので、当然です!」


ばあやはニィと笑って「それでですね……」と少し声を潜める。

なんだかろくな事じゃない気がして体を引くも、ばあやは止まってはくれない。


「陛下とレオニス様の人気もかなりのものです。もちろんレオナ王妃としてですがね」

「俺、全然民の前に姿見せてねーけど」

「そこはちゃーんと新聞が出ていますから!『漆黒の王の妃は純白の聖女!その美しさに王が笑った!』なんて記事が」

「ゴシップじゃねーか!」

「王の妃なんて面白いに決まっているでしょう!ですが、皆様は実は性別が逆転しているなんてご存じありませんからねぇ

……好き勝手書いていますよ、レオナ王妃のバストサイズは?とかそんなに華奢で子どもが産めるのかとか」

「俺が産めたら奇跡すぎるだろ」


一気にばあやのペースだ。

王妃である以上、いろんなことを言われるだろうことは想定済み。

何ならばあやの発言した内容だって、ひどいとは思ってない。

ただ女として俺を見た民衆に、少し引いただけ。


「ですので、ご安心くださいな。レオニス様の秘密も、身の安全も、しっかり守られております」

「それ以上の尊厳とかが守れてねぇけどな」


椅子の背もたれに思い切り寄りかかる。

三傑の話題から、どうして俺に話が回ってくるんだ。

俺の倍以上は生きているようなばあやは、相変わらず疲れなんて見せずに鼻歌歌いながら茶を淹れだした。


(一番謎なのは、ばあやだけどな)


ただの人間に城の管理任せるなんて、メイカから相当信頼されてる。

俺がこの城に初めて来たときから、俺の性別も実はわかっていたらしい。

この国のトップシークレットじゃないのか、俺たちが逆転夫婦なのは。

この城の中はほとんど人がいない。

確か、部屋として機能しているのは俺の今いる部屋と、メイカの部屋。あと三傑の部屋とばあやの部屋。

ばあやを除いて、みんな魔法が使える。俺は戦闘が得意じゃないけど、身を守るくらいできる。

なのに、使用人を雇わずにこのパワフルおせっかいババ……ご婦人一人だけ、どうしてここにいるんだ。


疑問を口に出そうとしたとき、城門から大きな音がした。

ガーンガーンと盛大な銅鑼の音。

それに加えて衛兵の声と開門の合図。

外に顔を出せば、眼下に黒い鎧のこの国の最高権力者が見える。

メイカの両脇を固めるのは、両手に黒い籠手を嵌めたライユ。そして見たことがない黒マントの男。

メイカと同じくらいの背丈の男がガエンだろう。

ばあやが口元を覆って興奮してるし。


「まあまあ!皆さんお戻りですよ!ささ、出迎えましょう王妃様!」

「え、行くの」

「何を当たり前のことおっしゃるのです。陛下はさぞお喜びになりますよ」


さあ早くと促すばあやは、すでに俺の羽織をもってスタンバイ中。

黒地に植物が白い糸で刺繡されたそれは、メイカが出立する前にばあやに作らせた俺専用の羽織だという。

形は女物なのは王妃の立場上仕方ない、でもデザインは女々しくなくてイケているので気に入りの品。


(この羽織の礼ができてないし、見送りくらいしてやるか)


メイカにはもらってばかりだから、少し王妃らしく出迎えてやらんこともない。

それに、俺ばかりあいつに素性を知られているのは面白くない。

俺に対する反応は信じられるが、あいつ自身は信用できない。

だったら知ればいいだけだ。


(三傑に接近できれば、何かしらあいつについても知れるだろ)

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