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1話 夫婦(ただし王妃は男であるとする)

月の光が差す部屋の中、初夜の夜。

俺はベッドに座って目の前の光景を見ていた。

鎧に守られていたその下。

そいつの浅黒い素肌がさらされたとき、すぐに目を逸らした。

そこにあったのは、自分にはないもの。

俺の番になったその人のトップシークレット。


~~~~~


天気がいい。雲一つなくて、とてもいいハレの日。

花嫁だそうです。俺、結婚するらしいです。なんですと。

自分の国とは違う、赤い色彩の目立つ異国で、赤金の女物の装束に包まれた俺。

周囲は黒髪黒目の知らない奴ばかり。金髪青目の俺を見て「あれが聖女の国の」と噂話が絶えず繰り広げられている。

知らない奴らに誘拐されて、知らない国に入って即日で結婚式。

しかも新郎は登場が遅れているという。

目がチカチカする色彩に耐え切れずに目を閉じた。


昨日、いつも通り影薄く修行して、人目につかないように家に戻る途中に誘拐されました。

布袋を被って、何時間も誘拐犯と共に馬車に揺られている間に彼らはずっとくっちゃべっていた。


「聖女様っていうからどんな美人かと思えば、ガキだろ。しかもみすぼらしいな」

「さあな、だが簡単に済んでよかったじゃないか。次期聖女なのに警備がザルだった」

「黒血王もなんでまたこんなのを。せっかくの花嫁なんだからもっと色気ある女にすりゃいいのに、どうしてこんなんとの結婚を急ぐんだか」


その話を聞いてからずっと生きた心地がしなかった。

黒血王と言えば、一年前に争いが絶えなかった近隣諸国を武力制圧して平定した人物。

失われたはずの黒魔法を用いて勢力を広げ、流された血は膨大とも伝わる。

それ故ついた異名が『黒血王』。

黒き魔法を使い、黒の国を建国した血塗られた王。

戦火の影響は実家のある聖女の国では少なかったものの、彼がもっと勢力を広げようとしていたら危ない領域だったと聞いたことがある。

しかも問題はそれだけじゃない。

(俺、次期聖女じゃないし、それ以前に女じゃないが!?)

そもそもの問題があった。

確かに男なのに女顔でひょろくて、聖女が使う光魔法を使うから同じような金髪青目だし、自慢じゃないが魔力は高い。

外見だけなら次期聖女と全く同じと言っていい。

だからと言って野郎とBL結婚するなんてまっぴらごめんだ。

しかし、黒の国に入国してすぐ王の仲間らしい奴に拘束魔法をかけられ、指一本動かず、流れるままに身支度をさせられ、式場に連れてこられた。


「陛下のおなーりー!陛下のおなーりー!!」


大声で宣告するのは、人の好さそうな顔をした浅黒い肌の男。

(あいつ俺に拘束魔法をかけた……!)

拘束野郎の言葉に、黒の国の貴族っぽい連中が顔をしかめるのが見えた。やっぱり、新しい王はまだ歓迎されてはいないらしい。

こちらに向かってくる大きな足音。晴れの場だというのに、ガシャガシャと鉄の擦れる音が絶えず聞こえている。


「まあ、こんな場でも黒鎧だなんて」「我らを信用していないのだろうよ」「誰だって奴が鎧を脱いでいたら刃の一閃でもしたくなる」


なんとも聞いていて気持ちの良くない、ざわざわとした人の声が耳につく。

自国だというのに、こんなに受け入れられていないのはどうなんだよ、黒血王。

鎧の音が俺に迫る。

ずっと閉じていた目を開けて、初めてその人と対面した。

黒鎧を着た上から、俺が来ている服と似た赤金のガウンみたいのを羽織ったそいつ。

俺より30センチは差がありそうな身長、筋肉で膨張した胸板、肌の露出は少ないのに、体の隅々まで力が詰まっているような大男。


「あなたは、レオニス殿ですね」


俺を確かめるように呼ばれた名前に驚いて顔を上げる。

浅黒い肌に長い黒髪をポニーテールに結ったそいつは、思ったよりも人間の顔をしていた。

切れ長の目元は涼やかで、聖女の国ではあまり見ないミステリアスな雰囲気を醸し出している。

どこかその瞳にうずくものを感じて目を逸らす。

何がおかしかったのか、黒血王は少し微笑んだ後俺の隣に腰を下ろした。

座る直前、ご丁寧にこう言って。


「逃げないでください……お願いしますね」


周囲の人間に見えたかはわからない。

でも俺はコイツの周りに黒い靄が見えた。直感でわかる、良いものとは言い難い魔法の気配。

肌が浅黒く、髪も闇のように黒く、夜を切り取ったような瞳。

自分の全体的に色素の薄い姿を思い返して、驚いた。

俺の口が拘束魔法で縫い留められたように開かないのをいいことに、式は順調に進んでいく。


「では、ここに国王メイシュウ陛下と王妃レオナ様が夫婦になられたことを、宣言いたします」


その瞬間、大きな拍手に包まれた。

「聖女の国とのつながりだ」「より大きな国益を」「我らをさらに強くお守りください陛下」

歪な祝福と共にこの結婚は認められてしまった。

血塗られた王に、聖女もどきの女みたいな男の夫婦、いや夫夫か?

絶望の状況にあって、王は俺の腰を抱くように引き寄せる。

身構えた俺に、奴は言ったのだ。


「お話があるので、初夜は逃げずにお待ちください」


その瞬間、拘束魔法が解けた。

黒魔法の性質である、打ち消しの作用だろう。その上で、俺に黒い靄……黒魔法をかけた。


「あなたを守るためなのです。害しはしません、あなたは何があっても」


王だというのに、へりくだっているような言葉にイラつきを感じる。

俺が聖女……物理的に弱い女だと思われているのかと脳の血管が切れそうだった。

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