8日目②:それは予想できない告白です
「はいはーい」
「見世物じゃないからねー」
「ちなみにどっちかのストーカーになったりしたら即110番するからねー」
一樹が碧海と一緒に移動した後の事。
碧海と同じグループに所属しているギャル達は、すぐさまクラスの中にいる碧海のファン達にそう言って牽制した。
彼女達は碧海の友人であり。
そしてそれ故に碧海が、普通に過ごしているだけなのにどれだけ人気者であるかを、さらには碧海経由で一樹についてを知っているため、今回の移動の後に起こる事を考えて……どれだけ面倒臭い事態が起こってしまうかを予想してたのだ。
(まぁ碧海なら大丈夫でしょ)
そんな中で、友人の一人はふと思う。
(まぁ? 相手はそれなりに事情がある特殊なオタクかもしれないけれど、あそこまで……ストーカーっぽくもあるけど、とにかく好かれているし? 長い間想ってくれてたんだからそれなりに応えてくれると思うけど……変な感じがするな)
そんな中で彼女は、ふと違和感を覚える。
両者の間には確かに数年のブランクがあるっぽいので、忘れられててもおかしくないが、それでもずっと視線などを向けられてれば、何かを思い出してもいいハズである。
にも拘わらず、一樹に何かを思い出した様子はまったくなかったのだから。
「…………穂乃果、ちょっと二人を見に行ってくれん?」
「ん? OK」
とにかくその違和感を拭えない友人は、同じくギャルの友人である穂乃果に一応様子を見に行ってもらう事にした。
※
トートレイド公国。
ヨーロッパ某所にある国。
それがアタシのママの生まれ故郷。
ママがパパと出会った国でもある。
ママとパパは世界を股にかけるような仕事をしている。
二人はその仕事の関係で出会い、結婚し、アタシが生まれて……そしてその関係でアタシは、何度か海外へ引っ越していた。
そのせいでアタシは、時にその転校先の国の学校でイジメられた。
よそ者がいきなり別の場所のコミュニティに入ろうというのだから無理もない。
そしてそんなある日。
ある国でイジメられていた時の事だった。
『何やってんだオラァ!!?』
あなたが現れたのは。
あなたはとても強かった。
アタシと同じくよそ者だからだろうか。
アタシがよそ者だから、という理不尽な理由でイジメられているのを見て怒ってくれて、それでイジメっ子達を退散させてくれて。
『へぇ。お前の母さんはトートレイドの人なのか。どうりで、綺麗な金髪と碧い目だと思った』
『ッ!?』
そして気分転換に屋台のお菓子を一緒に食べている時。
まさかまさかで、アタシの容姿を褒めてくれて……アタシは不覚にもあなたを、より意識するようになってしまった。
『あ、もしかしてその綺麗な色を嫉んでたんじゃないかアイツら!? うん、それなら納得だぜ』
その後、あなたは何かを言っていた気がするけれど。
その時のアタシはそれどころではなくて……いやだって、自分の身を顧みずに、アタシを助けてくれたばかりか、アタシの容姿を褒めてくれたんだ。
あなたをどうしても意識してしまって……ううん、もうハッキリ言おう。
アタシはこの時、あなたの事をこれでもかと好きになってしまったんだって。
※
けれどあなたは、アタシが告白する前に引っ越してしまって。
さらに言えばアタシも、家の事情で別の国に引っ越さなくちゃいけなくなって。
そのせいでアタシは元気が出なかったけれど……この高校に入学する前に、再びあなたと出会えて…………いや、正確にはアタシがあなたを目撃しただけだけど、とにかくまたあなたを見つけて。
とても嬉しかった。
でも、すぐに話しかける勇気が出なくて。
それであなたに何度も視線を送ってしまったけど……アタシがイジメられっ子であったせいか、アタシは耳が良くて、そのおかげで、あなたが所属してるグループの会話がよく聞こえて……それであなたが、なぜオタクグループにいるのか、その理由を知って……あなたに改めて好意を覚えた。
キャラ変わったなぁとか思わないでもないけど。
それでも人生、何が起こるか分からないんだから……キャラが変わるくらいの事はあるよね?
ちなみに、別人なワケはない。
なぜならあなたの容姿は忘れられないから。
その浅黒い肌に、天然パーマに、額のホクロに、それに――。
とにかくアタシは、なぜアパートを知っているのかの事情を話した後で、改めてアタシの過去と、この気持ちを伝えるッ。
「それで、アタシは――」
※
碧海さんからアパートの事を聞いて、納得した。
まさか引っ越しの時点で俺の事を目撃していたとは。
しかし、その後の話――彼女の過去を聞いていて、違和感を覚えた。
「そ、それで、あの……あ、アタシ、その頃から……あなたの事が好きです!! アタシと付き合ってくれませんか!!?」
そして、ついには告白されたけど。
さらに言えば、嬉しい気持ちと熱が湧き上がってくるけれど――。
「…………碧海さん」
だけど俺は、嘘をつけないから。
胸が張り裂けそうになりながらもこう返した。
「ごめんなさい。気持ちはとても嬉しいし、俺としても……その、可能であれば、お付き合いしたいとは思うんですけど……俺はきっと、あなたを助けた人じゃないと思います。だって俺、今まであなたのような方に会った覚えがないんですから」
トートレイド公国のモデルは都市伝説の国家『トレド』です。
でもって、周囲の声を嫌でも気にしちゃうタイプいますよね。
そういう方の中にはその過程で地獄耳になる方がいるかもしれんです。