6日目②:会えた事は良いけれど
信じられない光景を見てしまった。
まさか朝から碧海さんとバッタリ会ってしまうとは。
いやそれ以前にその碧海さんが俺の住んでいる場所を知っていたとはッ。
なんだかちょっと怖い。
いったいどういう経緯で、彼女は俺の現在住んでいるこのアパートを突き止めたんだろうか。
いやそれはともかくなんで彼女はここに来ていたんだろうか。
まさかこのアパートには碧海さんの知り合いが住んでいたりするんだろうか。
その可能性もなくはない。
でもそれならなんで俺に対してあそこまで……テンパるんだ????
それにしても、なんというか……テンパっていた様子が可愛かったな。
教室ではなんというか近寄りがたい輝きを放っているのに、まさか彼女にあんな一面があったとは……いやいやいや。
それはそれとしてどうして俺から逃げたんだろう。
それだけがどうしても理解できなくて、モヤモヤする。
クシャミをしそうでしないあんな感覚のようにモヤモヤする。
『オマエだよ』
そんな時、友人から言われた言葉がふと脳裏に甦る。
碧海さんが主に挨拶をしてる相手が判明したらしいと言った後の言葉だ。
「…………いやいやいやまさか」
最初聞いた時、冗談だと思った。
だけど、さっきのあの彼女の言動……なんだかその可能性が急上昇して、それで俺の顔に熱が集まってくるのを感じた。
だけどすぐに、彼女が俺を気にかけていた場合だけど……そんな俺の住んでいる場所をとっくに特定している可能性に行き着いて。
ゾッとした。
何まさか彼女は俺を尾行とかしてたの!?
すんごい怖いんだけど!?
ていうかもしも、学校で見る彼女が嘘の彼女で。
そして俺の住んでいるアパートを、いかなる手段を使ってか特定し、それを遠くから見ているような彼女が本当の彼女だとしたら――。
「…………警察に、相談すべきかなぁ」
うん、ストーキングとかは犯罪だし。
だけど警察が動くのは事が起きた後だしな。
証拠を押さえたとしてもその時俺は無事でいられるのだろうか。
いや、人によっては彼女に監禁されたいとかの性癖を持っているかもだけど。
うん、それだけ彼女は俺が通っている高校の女生徒の人気の上位なくらいの美人なんだから。
だけど、俺の場合は…………やっぱり怖いわッ。
でも、それはそれで放っておけない気持ちもある。
このまま彼女を社会に放ったら、大変な事になりそうだから。
いや、俺が背負うべき責任じゃないかもしれないけれど……こんな事で見て見ぬフリなんかしたら、家族になんて言われるか。
よほど話が通じないサイコパスとかならともかく。
まだ引き返せる段階に彼女がいるのなら……そして本当に、俺を好きなばかりに俺の住んでいる場所を突き止めたのならば、説得しなければ。
俺は決意を新たにする。
だけどすぐに動き出すのはさすがに怖い。
罠にハメられ自分がストーカーにされてしまう可能性があるし。
それになんらかの地雷を踏んで逆上して事態が悪化する事もある。
また現れた時に備えて、とりあえずマイフォンを常備しておこう、うん。
そして会話が始まったら、証拠が残るように録音しておくんだ……う~ん、今のところできる事がこれくらいしかない。
それでもダメな場合は……先立つ不孝をお許しください親族に友人のみんな。
※
マズいマズいマズいッ!!
なぜあのまま逃げたしアタシッ!!
絶対不審者として見られたしッ!!
ていうかこれじゃプラスどころかマイナスじゃないの印象ッ!!
そう思うと、アタシは自宅に戻るなり寝転がり顔を両手で隠し自室でゴロゴロと転がりまくった。転がりたくなった。壁に頭が激突しても、一瞬痛みのあまり一時停止するけど少ししたらまた転がりだし――。
「うるさいよ碧海!」
――ママに怒られた。
うん、そりゃそうだ。
だけどママ、分かってほしい。
ママの故郷で会った子にまた会えたんだよ。
ママだってパパといろいろあったけど再会して結婚したとか言ってたじゃん。
それだったら少しは察してよママ。
ママも絶対こういう経験あるでしょ。
そんな事を思っているとママが勝手に自室に入ってきた。
普通だったら怒るところだけどアタシにも非があるので言い返せない。
「…………その反応……え~っと? 確かイツキくん、だったっけ? その子関連で何かあったのかい?」
ママの怒りが消えた。
どうやらある程度は察してくれたらしい。
だけどアタシがさっきまで何をしていたかを思い出し……顔が熱いッ!!
「…………そうかい。ようやく会えたのかい。長かったねぇ」
一方でママは、そう冷静に言うなり……アタシの部屋の壁に貼ってある、地図を眺めた。
日本地図じゃない。
ママが生まれた国の地図だ。