6日目①:まさかのばったりモーニング
俺には、母の生まれ故郷の田舎で、一時期過ごしていた時期がある。
なんやかんや前の家の方であって、それで避難所として行ってたのだ。
そこは、一番最初に住んでいた場所……もうどこだったか忘れてしまったけど、とにかくそこと違って自然豊かで、それでケガとかしやすい場所ではあったけど、そうなった場合の対策もちゃんとしていた。
『はい、これで大丈夫』
ケガをした俺を、一人の女性が手当てしてくれた。
それを見るどころか直に体験した俺は、初めて誰かに憧れた。
『よかったな、一樹!』
後ろに控えてた、当時の俺の友達がバシバシ背中を叩く。
正直痛いし傷に響くから『痛いっての!』とツッコんだ。
『にしても一樹は、前に比べるとケガしなくなってきたな!』
『ああ、そういえばそうかも』
友達の言う通りだ。
最初はケガばかりだった。
でも過ごす内に適応したんだろう、うん。
『でもだからって、無茶だけはダメよ?』
手当てしてくれた方が忠告する。
『大丈夫!』
すると俺の友達がドン! と自分の胸を叩く。
『どうしようもねぇ時はオレが一樹を守るからな!』
当時としては自分の誇りに関わる台詞だった。
俺は思わず『俺そこまで弱くねぇし!』と言い返す。
そしてこの後、その友達との、喧嘩レヴェルじゃないけどそれなりの言い合いになるのだが……今思えばとても頼もしい台詞だったと思う。
いや、それはそうと。
その友達は今も元気だろうか。
年賀状の内容からして元気そうだけど――。
※
そんな夢の途中で、目が覚めた。
ずいぶん懐かしい夢を見たもんだと思う。
時計を見ると、午前五時を過ぎたところだった。
ずいぶん早く起きたな……と思うと同時に、今さら昔の夢を見た事は、近々何かが起こる前兆ではないかとふと思う。
「碧海さんの影響かな?」
あの明るさには、夢の中の友達に通じるところがある。
いや夢の中の友達はギャル系ではない。むしろ黒髪ショートカットでいつも俺と一緒にケガをするほどのワイルド系だった。
それどころか傷を見せてきて『どーだ、オレの新しい勲章だぜ♪』と言ってくるようなキャラだった。
明るい以外は似ても似つかない。
「いや、それよりもどうしよう」
起きてしまったもののやりたい事はない。
今日は土曜日であるが、見るべきアニメなどの作品は今はやっていない。
「…………散歩でもするかな」
それしかなかった。
なので俺は外出の用意を始める事にした。
※
毎朝、アタシはランニングをする。
健康のためもあるけど、体型を維持するためでもある。
見た限り、一樹くんはアタシの事を覚えていないっぽいけど。
それでもいつか思い出してくれた日のために、素敵な女性でいたいから。
「……ん? あれ? いない?」
そんなアタシのランニングコースには、一樹くんが今住んでいるアパートの近くが入っている。
いや、アタシはストーカーというワケじゃない。
前に買い物帰りでこの近くを通った時――ついでに言えば、高校に入学する前に一樹くんを遠目で目撃して、彼の住んでいるアパートを知ってしまったんだ。
アタシとしては、その瞬間を運命の再会にしたいけれど……その時は、あまりの衝撃で動けなくなったどころか、一樹くんはアタシの方を全然見ておらず、会ったとは言えない状況になったため、再会にカウントしていない。
でも、今思えばそれで良かったかもしれない。
高校で改めて運命の再会をした時にアタシの事に気づかなかったくらいだから、もしもそこでいきなり話しかけていたら、イタい人だと思われかねない。
とにかくアタシはそんな経緯で、一樹くんの住んでいる場所を知っている。
そしてその部屋を見てみると、レースカーテンしか閉められてない状態で、電気がついてない。
どこかに出かけているとしか思えない状況だ。
「だとしたら……ランニングの途中で会えるかな?」
今までは挨拶を交わす事くらいしか接点を作れなかったけど、これを機に一緒にランニングするなどの約束を交わす事ができれば、一気に距離が縮まるかも――。
「あれ? もしかして碧海さん?」
――後ろから一樹くんの声がした。
一樹くんの部屋を、遠くからガン見しているアタシを見ているだろう一樹くんの声が……って、これじゃ確実にアタシが不審者!?
「……えっ……あっ、ち、違うのこれは!? これは一樹くんが買い物帰りで入学前がアタシで――」
慌てて振り向きつつ言い訳をするけど……っていうか、いったい何を言ってるのアタシーーーーッッッッ!?!?!?!?
「…………す、凄いね碧海さん」
すると、一樹くんはなぜかアタシから目を逸らしながらそう言った。
え、ちょ、何言ってるかサッパリ分かんないんだけど!? 何言ってるの!?
「朝にマラソンしてるんだ。うん、凄いねホント。努力家なんだ」
なんで目を逸らすか分からないけど褒めてくれてありがとう!?
なんて、思うけど。
途端に恥ずかしくなったから……アタシは全力で逃げ去った。