3~5日目:まだまだ進展しない関係性
それからしばらく……金曜日まで、碧海さんに朝の挨拶をされる日が続いた。
もしも好意的な挨拶だとしたら嬉しいけれど、嘘告白で相手を本気にさせるための仕込みであったとしたら……そんな思いが拭えない。
漫画アニメではどう対処していただろうか。
もうずいぶん前にその話を視聴した気がするけれど……確か『すみませんお友達でいましょう』などの返事だったか。
フるはフるで厄介な事になるが故の無難な返事だ。
それ以外は……ダメだ。
これは改めて見ないといけない。
俺はすぐに動画サイトへとパソコンでアクセスした。
※
ダメだった。
嘘告白に見えて実は本当の告白だった的な展開ばかりだ。
そうじゃなくても本気の嘘告白の被害に遭った主人公が、主人公を本気で好きなヒロインに恋をしてざまぁしてハッピーエンドなお話だ。
まったく、穏便に済ませる手段が描かれた作品が見当たらない。
もう少し時間が経てば、そういう漫画アニメも投稿されるだろうか。
けれど、いつ嘘告白……いや、そうだった場合だけど。
とにかくその嘘告白をいつ仕掛けてくるのか、分からない以上……そんな悠長に投稿を待っている時間はない。
「…………って、もうこんな時間!?」
たった数時間だけだと思っていた。
動画サイトで嘘告白関連の作品を視聴していたのは。
だけど実際は、深夜を回らんとしている時間になっていた。
ば、バカな。
二倍速で視聴していたのに。
「いや、とにかく寝よう」
明日も登校日。
これ以上夜ふかししたら確実に寝坊しそうなので……俺はパジャマにも着替えずすぐにベッドに横になった。
※
「おはよー、一樹くん」
「おはよーさん」
「おはよーう」
「お、おはよ」
翌日。
ちょい明るめのオタクグループの中では一番遅い登校となった。
ついでに言えばHR直前。
ギリギリの時間だった……というかまだ眠い。
休み時間は眠らせてもらおう。
そしてそのためにも、マイフォンのアラームを忘れない内にセットせねば。
「そういえば一樹くん、分かったよ」
自分の席に着いて、マイフォンのアラームをセットしていると、省吾くんが話しかけてきた。
「碧海さんが主に声をかけていた相手」
次の瞬間、俺は反射的に省吾くんへと顔を向けた。
まさかの事実の判明なんだ。聞いておいて損はないだろう。
「だ、誰?」
「オマエだよ」
省吾くんは、まるで怪談を語る時のような声色でそう言った。
アレだ、登場人物が殺したと思っていた人物が実は生きていて、それでその殺されたと思われた人物が殺そうとした人物に「こんな顔ですか」なんて問いかける、あのパターンみたいな声色だ。
だから、俺は情報処理に時間がかかった。
昨日徹夜してしまった事もまた情報処理速度の低下の原因だろうけど、とにかくそれくらい衝撃的な答えだ。
「う、嘘だろ? なんで俺なんだよ」
「同感だよ。誰が相手だろうが同感だよ」
大輔くんが言った。
「だけど碧海さんの反応からしてそうとしか思えないんだ」
和也くんも言った。
「「「お前が遅れてくる事を知った時の碧海さんの反応からしたら――」」」
そして、三人揃ってまさかの答えを言ったその時だった。
教室のドアを開けて「おーい、HR始めるぞぉ~」と言って担任の先生が入ってきたのは。
俺達はすぐにそれぞれ席に着き前を向く。
そしてすぐにHRが始まるのだが……その内容が頭に入ってこなかった。
まさかの事実。
碧海さんが俺に主に挨拶をしていた事実を聞いたせいだ。
ふと気になり、碧海さんが座る右斜め前方向の席のさらに向こうの席を見る。
碧海さんは最初、真面目に先生の話を聞いていたが……俺の視線に気づいたのかふと振り返り、慌てて前を向いた。
いったい、どういう意味の反応だろうか。
オタクに対して気持ち悪いと思うが故の反応か。
それともどんな経緯かは知らないけど俺を好きになったからこその反応か。
正直、後者だと嬉しいと思うけど。
住む世界が違う以上前者の可能性を捨てきれない。
とりあえず……警戒は続行する事にした。
※
まだ心臓がバクバクしてる。
視線を感じて見てみたら、まさかまさかで一樹くんがアタシをガン見しているのが見えたせいだ。
まさかアタシを意識してくれるとは思わなかった。
いや、アタシはそれなりに人気っぽい(周囲から聞こえるヒソヒソ話からそうとしか思えない)から、思わず目を向けるのは当然かも……しれないけど。
とにかく、これって……二次元にしか興味がないワケじゃなく。
ちゃんと三次元女子にも興味を持ってくれているって事だよね……正直ちょっと安心しちゃった♪