2日目:ちょい接近だけでもドキドキです
視線の事が気になったせいで、眠りが浅かった。
だから目が覚めた後、もう一度横になったけど、ウトウトしてようやく眠れると思ったその瞬間に、マイフォンのアラームが鳴った。
「…………起きるか」
仕方なく俺は起きる事にした。
と同時に今日はいったい何が起きるのかといろいろ想像してしまう。
いきなり嘘告白とかを仕掛けてくる可能性はないと思うけど。
それでも、住む世界が異なるグループなんだ……こっちの想像を超える可能性はあるだろう。
「…………はぁ。やっぱりこっちの学校は怖いな」
そう言いつつ、漫画アニメのような事が起こらないよう祈る。
俺としては、なんとか大学まで平穏無事に進学して……したい仕事をしたいだけなんだから。
※
「一樹くんおはよー」
「おはよー」
「ああ。おはよー」
同じグループの大輔くんと和也くんが挨拶をしてくれた。
どうやら大輔くんと和也くんは先に登校していたらしい。
「昨日の特番は見たか?」
「僕は途中から見たけど」
「あー、アレか」
和也くんが話を振ったため、昨日の事を思い出す。
確かに特番をやっていた。見る見ない以前に見るべきヤツだ。
「まさか昨日やるとは思わなかった」
正直な感想をまず述べた。
「でも確かに、それだけ長続きをしていたよな」
「そうそう、もう五十年だ」
「あのシリーズも長いよな」
大輔くんと和也くんがうんうん頷く。
ちなみにしているのは昭和から始まった特撮番組の特番の話だ。
着ぐるみの方のヒーローと、そのヒーローを演じた俳優さんが、そのヒーローのオープニングテーマが流れる中で登場し、舞台の中央で握手を交わしてから、それぞれ席に着く、あのオープニングにはシビれたね。
「個人的には小鉄三郎さんにも出てほしかったよ」
「「「ああー」」」
俺と和也くんが同時に……あれ?
声が一つ多いと思ったら省吾くんも登校していた。
「俺も出てほしかったよ、小鉄さんには」
鞄を置いてから俺達のグループに省吾くんも加わる。
「療養生活中だったっけ?」
「情報によればガンらしいけど」
「手術、成功するといいな」
小鉄さんの演じてた時代に比べると、医療は発達しているけれど。
それでも小鉄さん――昭和シリーズ初期の伝説の役者の安否は、どうしても心配になる。
「おっはよぉ~!」
ちょっと暗い雰囲気になった中で。
そんな暗い雰囲気を吹き飛ばすような声がした。
昨日の視線の主の候補である陽キャなギャルのグループの一人にして、この高校の女生徒の中では人気の上位に入る(らしい)碧海さんの声だ。
「おーす」
「おはよ~!」
先に登校していた同じグループのギャルが挨拶に応じる。
いつもの光景。俺達とは絶対に交差しない世界の光景。そしてこれからも変わらないと思われる光景――。
「あ、こっちもおはよ~!」
「「「「ッッッッ!?!?!?」」」」
――だと思ったのは碧海さん以外のみんなだった。
なんと碧海さんが、俺達の方にも挨拶をしてきたのだ。
一瞬、何事かと思って反応に困った……だけど周囲の目もある。
ここで無視をしたらそれこそ村八分ならぬ学校八分になりかねない。
そしてそれを認識した俺達は、少し遅れてから「お、おはよ」と返した。
碧海さんはそのままほんの数秒、笑顔でいた。
そしてその数秒が過ぎると、すぐに自分が所属するギャルのグループに加わっていった。
「な、なんだったんだ」
省吾くんがまず口を開く。
「アレが俗に言う『オタクに優しいギャル』????」
「まさかぁ。何かの前触れに決まってる」
「…………だよね」
和也くんの言う通り何かの前触れにしか思えなかった。
だっていつもの光景とあまりにも違いすぎるんだから。
とりあえず、俺は警戒を続行した。
※
「はー、キンチョーしたー」
アタシは未だにドキドキしながら正直な感想を言った。
「ま、一歩前進?」
「いや一歩どころか半歩くらいじゃね?」
「偉大な歩幅だというのは間違いない」
するとアタシのギャル仲間が一斉にそう言った。
アタシとしてはちゃんとした一歩だと思うけどなー。
だけど、向こうも思っているだろうけど住む世界には隔たりがある。
ちょっとずつ崩していかないと、余計な波乱が起きちゃうかもしれないくらい、世界が違うんだ。
だからこれからも、ちょっとずつ頑張らないとね♪




