7
いつもお読みいただきありがとうございます!
本日2回目の更新です。
「デボラの側にいたら落ち着く」
「リヒトールはモテモテね」
「デボラ以外にモテても意味ないよ」
俺はデボラの背中に抱き着きながら甘えた。
デボラは意外と俺に抱き着かれるのが好きなのだ。これは家令ロンバートが「デボラお嬢様がとても喜んでおられましたよ。まったくもう、なんて言いながら口元がかなり緩んでおられました」と教えてくれたので遠慮なく甘えている。膝に頭を乗っけることもあれば、今日の様に背中にべったり張り付くこともある。
ちなみに初対面でロンバートは俺の境遇に同情して泣いていたのではなかった。彼は、新しい恋愛模様が俺とデボラで見られそうだと感動で泣いていたらしい。伯爵は俺と同じ香りがする人だが、どうにも家令の趣味はよく分からない。
デボラはぽんぽんと俺の頭を撫でてくれた。
デボラの友人の呆れ果てた視線を受けながらも、俺はそんな友人にどう思われようがどうでもいいのでデボラの香りを嗅いだ。やっぱり太陽みたいな良い香りがした。
そうそう、ちゃんとデボラの友人に挨拶はしているし、デボラのために持って来たお菓子だって少しはお裾分けしている。
伯爵は教えてくれたのだ。「どうでもいい他人にも礼儀正しくしなさい」と。俺は不思議だった。伯爵だって伯爵夫人以外はどうでもいいはずなのに、修行だと称して俺を連れて仕事に行った時はきちんと他人に対応していたのだ。
「君はそういうところだけは子供だ。相手は明日の顧客かもしれないし、明日の味方かもしれない」
「明日の敵になるかもしれません」
「敵を作る者は、皆それなりにおかしな態度を他人に取っているものだよ。君のお父上のようにね」
あのクズのことを持ち出されると何も言えない。
「敵になったら潰せばいいじゃないか。だって、こちらは真摯に接していたのだから。大義はこちらにあるからね」
伯爵は恐らく何人も潰してきたのだろう、余裕の笑みを浮かべていた。
学園に入って、ピンク頭以外にも俺の儚げな容姿と侯爵家嫡男という立場を狙ってくる令嬢たちはいた。でも、学園でデボラとこんなことを続けていると誰も寄り付かなくなった。そう、彼らは普通察するのだ。でも、一部察しないのもいる。
「学園でハエを一匹、駆除します」
俺は月に一度伯爵邸に赴いた日に、伯爵にそう告げた。
「あぁ、君がたまに話していたあのピンクちゃんかい?」
「はい。デボラが一人の時に接触しているそうなので」
「そうかぁ。人がたくさん集まるところにはバカな子が何人かいるものだねぇ」
伯爵は伯爵夫人が自分以外を気にかけなければ、何でもいい人だ。
つまり、伯爵夫人が自分を向いてくれているのであれば何でもいい。そのためなら息子や娘も使う。娘に罵られても伯爵夫人が気にかけてくれるならいいという人なのだ。
だから、俺が鬱陶しいピンクのハエにたかられてそれを口実にデボラに構ってもらっていても何の文句も言わない。しかし、デボラがあのピンクバエのことで傷つき伯爵夫人に相談して夫人がデボラの件にかかりきりになると、俺の命は伯爵によって危険にさらされる。
無論、そんな無駄な経験はない。
デボラを傷つけて嫌われるなんて絶対に嫌だ。ある程度はうまく手のひらで転がして使ったけれど、俺を追いかけ回すだけでなくデボラにまでちょっかいを出すなら話は別だ。
「アシュクロフト侯爵は最近元気がないようだね?」
「はい。不摂生がたたったのか、調子が悪いです」
学園卒業と同時に爵位を継承できるように、あのクズには毒を少しずつ盛り始めたところだ。ハンティントン伯爵が連れ歩いてくれたおかげで人脈もできているし、夫人からも許可は出ている。
あのクズは病気だった母さんみたいにちょっとずつちょっとずつ具合が悪くなって苦しんで死んでいく。愛人にも見捨てられたところだ。
「ピンクちゃんはどうするんだい? 毒じゃあ芸がないね」
「はい、まぁ退学にはしますけど……逆恨みされても困りますからね」
「あぁ、逆恨みほど面倒なものはないよ」
「あのハエのことが好きな珍しい男性がいるので、駆け落ちをそそのかしてみます」
「駆け落ちということは身分差かい、それはロマンティックだね」
「デボラの友人が協力してくれるというので髪飾りでも鞄に忍ばせて窃盗容疑をかけるか、拉致して拷問して顔を傷つけて脅そうかと思いましたが」
「私は駆け落ち案が気に入ったよ。拷問はこの間、息子のルイスを舐めてかかってきた奴にやったじゃないか、ちょっとばかり掃除が大変だし臭いも気になるしね。駆け落ちならきっと、逆恨みもせず違う土地に行ってくれるだろう? 隣国なんてどうだろうか。あそこには国境の町に工場が出来て移住者が増えているし」
「そのようにあの子爵家の令息をそそのかしてみます」
夏季休暇に入る前にあのピンクバエは学園から姿を消していた。
デボラは「そういえば、あの子最近見ないわね」と言っていたくらいだった。デボラの友人は「あんた、一人でさっさと何かやったんでしょ」という顔をしていたが俺はデボラに真実など伝える気はない。
俺とデボラの世界を邪魔しなければ良かったのに。
このデボラの友人はそのところをよく分かっている。あの太陽の光を集めたような王太子もだ。