エラとスノーホワイト
お馴染みの“月曜真っ黒シリーズ”です。
三女エラを手元に残したのは独り身の大公が、自身のすべての世話をエラに行わせる為であった。
しかし好色の大公がその程度で満足しうる訳は無く、租税が滞っていたアルザス荘園の領主の末娘たるスノーホワイトを“担保”として納めさせた。
スノーホワイトは『アルザスの至宝』と謳われるほどの見目麗しい乙女であったが、
「宝石であれば何を消費するでもなく価値は変わらぬ。土地ならば豊饒の恵を供する事ができる。しかし女は愛で据え置いているだけでは食い扶持を消費されるのみ!! 我に奉仕し、子を成せ!」と卑しき者達の目の前でスノーホワイトを繰り返し凌辱し、その様を領主へつぶさに報告させて租税の催促に代えた。
夜になっても、その勢いは収まらず、大公は一日の仕事を終え疲労困憊になっているエラの首根っこを引っ掴んで寝所まで引き摺って行く。
寝所には既にスノーホワイトがおり、大公は己の欲望を満たす為だけに二人を並ばせた。
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それから1年と半年後、宮殿から一通の手紙が大公に届けられ、大公はエラ、スノーホワイトの両名を呼び付けた。
大公は二人を自分の前に立たせ、宮殿からの手紙を取り出した。
「これは、畏れ多くも第一王子カビル様主催の舞踏会の招待状で、国中の由緒正しきマドモアゼル宛てに下されたものだ。スノーホワイトよ! お前はエラの名を語りこの舞踏会へ出席せよ! そして必ずやカビル王子を篭絡するのだ!! お前の器量と私から教え込まれた技があれば造作もあるまい」
スノーホワイトは傍らで俯いているエラを顧みて大公に懇願する。
「それはあまりに殺生でございます!! 義理とは言え、いまやエラは私の娘! その娘のまたとない機会を奪うなど!! 人の親として出来ましょうか??!!」
「何を案ずる事がある! お前はエラの実の親ではない! それほど気に病むのであれば不器量なエラの名誉を立ててやると思えば良い! 何せ皇太子妃となるのだからな!」
「エラはどうなるのですっ??!!」
「妻として私に一生尽せば安泰であろう」
「そんな!!」
俯いたままのエラの分まで代弁するかのようにスノーホワイトは叫んだが、大公の耳には蚊の音の程にも届かなかった。
その日の夜更け
大公は腹上死した。
どちらの腹の上なのか?本当の死因は何だったのか?は……
寝所の厚い帳の中の永遠の謎となった。
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二夜に渡って行われた舞踏会……
一夜目は仮面舞踏会であった。
カビル王子の一番最後のパートナーを務めた令嬢は、何人よりも際立つ熱いダンスを繰り広げた。
時の鐘が午前零時を告げ、令嬢が王子の前から急ぎ立ち去った時に、左足の木靴を落としてしまい、王子はそれを胸に抱いた。
二夜目、壁に咲く大輪のバラの花と化していた“エラ嬢”に歩み寄り、その“花びらの裾”をたくし上げたカビル王子は、そこに白い素足を見、そのまま茂みに分け入った。
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この様にして“エラ”となったスノーホワイトは王妃の座を得、“スノーホワイト”となったエラは大公の未亡人として、その広い領地を支配した。
二人共、幸せを勝ち得たとしてこの物語を終えたかったのだが……
残念ながら、この物語には続きがある。
王子を落とすキッカケとなった一夜目のダンスは仮面を付けたエラが踊ったものだった。
つまり、王子は本当にエラを見初めたのだが……
自分よりはるかに器量が劣り、心の中ではバカにしていたエラに自分が負けてしまった事がスノーホワイトには我慢がならなかった。
加えて……
「私とエラが入れ替わったしまった事、寝所での乱れた関係、大公の暗殺など、どれひとつとってもエラの口から漏れ出てしまっては大変な事になる!!」と気が気でなかった。
一方、エラも自分がスノーホワイトに成り代わった事が領主にバレてしまっては元も子も無いので、租税債務の利子をトイチ(10日で1割)に引き上げて領主を自殺に追い込み、その領地をすべて没収した。
その報を耳にしたスノーホワイトは自分の父親と生まれ故郷をエラに奪われた事で怒り心頭となったが、そんな事はおくびにも出さず、
「よくぞやってくれた!!これで私達は安泰!! 離れていても私達は一蓮托生!! 今宵は祝杯をあげよう!!」と極上のワインをひと樽と特製のグラスをエラに贈った。
その樽が最後の一滴を落とす頃……ほんの数時間の間に……エラだけが醜い老婆と化した。
実はこの特製のグラスのみに毒が仕込まれており、エラ及びその“取り巻き”が毒に倒れる中、カビル王子指揮下の大群が攻め入り、大公の領土すべてにカビル王子の旗が立った。
これでスノーホワイトにとっては“めでたしめでたし”となったかと言えばそうでは無い。
元々、自分の為に国中の令嬢を集めるほどの“オンナ好き”であるカビル王子の“貪欲”は下々の者にまで及び、王妃の寝所は“開店休業”!
そしてこの“オンナ好き”は、あらゆる階層の男共の嫉妬と恨みを募らせ革命の火種となった。
こうして迎えたスノーホワイトの最期はカビル王と横並びのギロチン刑。
一説によるとその首は二十日間竿の上にさらされたとあるが、それは正確ではない。
暖炉掃除を生業とするセムシで灰まみれの寡婦が十三日目にその首を引き下ろし、自分の糞尿を掛けた上で血の畑に埋めたという説を……口伝者たる私は取ろうと思う。
おしまい
と言ってもお馴染みでないでしょうね……(^^;)
お目汚し申し訳ございませんでした<m(__)m>
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