婚約者ごっこから始まる婚約破棄宣言ゲーム 〜文化祭で浮かれていたのは誰なのか〜
───彼女がスマホをいじり出す。これは噂の破局のサイン。
彼女との付き合いの始まりは、二ヶ月前に遡る。
文化祭の恥死事件。隣のクラスで行われていたメイド喫茶で、僕は盛大にやらかしたのだ。
「……あ、あの結婚してください!!」
彼女が注文を受けに来た時に、本音がだだ漏れどころか声を上げて叫んでしまった。
シーンとする模擬店の教室。男子も女子もメイドに扮した店内で、僕は御主人様になってしまった。
やらかした僕に、彼女は一瞬目をパチクリさせただけだった。
「……ご注文承りました」
「えっ?」
運ばれて来たのは何の変哲もないコーヒーとシフォンケーキのセットが二つ。
「ちょうど休憩だったから一緒に食べよ」
この娘、強い。僕が一目惚れしたのは黒髪ショートの儚げな文学眼鏡少女……ではなかった。
クラスメイトの好奇の眼差しをものともしないクール美人。僕の告白をサラッと流して、メイド役に徹する姿に惚れた。お代も割り勘。
「将来を考えるのなら、同じお財布から出したようなものよ」
あれ? おバカな告白をした僕を助ける為に付き合ってくれたんじゃないのか。
優しく微笑む彼女に、僕はからかわれた────そう思っていた。
僕達は文化祭の縁を機に、将来結婚を視野に付き合う事になった。
いずれ破綻の見えた婚約者遊び。どちらかが飽きるまで続く。
「────あなたとの婚約を破棄させていただきます」
どちらかが相手にそう告げた時点で終了だ。僕はリアル婚約破棄ゲームを、隣のクラスの隠れ美人としているだけで贅沢だと思った。
そろそろ限界かな……そう感じたのが、二人で映画をみた後だ。
喫茶店で、二人ともコーヒーを頼み、映画の余韻に浸る。
僕も彼女も言葉数は少ない。今日の映画のように、シリアスな恋愛を見た時はとくにそうだ。
彼女がスマホを取り出す。ガラスに映る「放っといて」の文字。
────そこまで嫌われていたのか。
僕は二人で静かに過ごすこの時間も好きだったのになぁ……。
僕が始めた婚約破棄宣言ゲーム。たった二ヶ月でも、付き合って貰えて感謝すべきかもしれない。
宣言するなら僕から……
「ねぇ、今度はアニメを見ようよ」
「えっ、あっ、いいよ」
どうなってる?
僕を嫌いって?
「みてよ、友達からのこれ」
彼女は友達とのやり取りを僕に見せた。
「また夫婦ゲーム?」
「放っといて」
「離婚されろ」
「酷い」
彼女は告白を真に受けて、結婚を妄想していた。
どうやらとっくに婚約は破棄されていたようだ。
お読みいただき、ありがとうございました。この物語は、なろうラジオ大賞5の投稿作品となります。
喫茶店の窓ガラスがピカピカに磨かれている描写や、彼女の送ったメッセージだけが色の関係で映り込むなど止むなくカットしたので、若干主人公の心情のダメージが弱い構成になりました。
ただその分勘違いしあう男女のコメディ面も削れ、シンプルに物語が出来たように思います。
文化祭で浮かれていたのは誰なのか、それは読者樣の想像にお任せいたします。
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