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干ばつに苦しむ村・上

 ある年の夏、世界はかなりひどい干ばつに悩まされていた。かさかさに乾燥した大地はひび割れ、作物はからからに干からびている。川に水はなく、井戸もまた干上がっていた。農業用水、飲料用の水、全てに事欠く有様だった。

 とある村にて一人の男が畑で嘆く。


「おぉ、なんとしたことだ。これでは食べる物も無くなる。神はなぜにこのような試練を我々に与えたもうや・・・・・・」


 男は力なく項垂れた。そして大地を握り締める。水気のない土が男の手からさらさらと零れ落ちる。そして風に吹かれて飛んで行った。

 そんな男の前を他の百姓が通りかかり、彼に声をかける。


「トニーウッド。こうなっては畑の作物には期待できん。ワシらは終わりだ。四辻向かいの家の連中のように、首を括るより他あるまいて・・・・・・」


 生気のない目をした百姓はそう言うと、枯れた風とともに去って行った。

 トニーウッドは地面に手を付き、両の目から涙を流した。そんな涙の雫さえもを太陽は枯れさせる。


「子供達に食わせる飯も無いとは。家族になんと言ったものか・・・・・・」


 トニーウッドには家族がいた。妻と三人の子供達だ。子供らはまだ食べ盛りの小さな子らだった。だがそんな家族もいずれは飢えて死んでしまうだろう。彼は作物の葉を掴む。まだかろうじて生きている。だが、それも一週間のうちに枯れ果てるだろう。何の望みも無いのだ。

 トニーウッドは遠方の畑から歩いて村まで戻ろうとした。その時、街道で行き倒れている人を見つけた。それは黒い鎧を着た男だった。


「こんな時に旅をして行き倒れている男がいるとは・・・・・・しかし、見捨てるわけにもいかんな。たとえ飢えても心まで貧しくなってはいけない。彼を助けよう」


 トニーウッドは黒い鎧の男を背負い村まで歩く。それは重労働であろう。しかし、彼は額に汗を流しながら男を運んだ。

 トニーウッドは自分の家の布団に男を寝かせた。それを見た妻がやってくる。


「あなた、この方は?」

「街道で行き倒れておった。ひどい脱水症状のようだ。このまま捨て置いていたら彼は死んでしまうだろう。それを自分が見つけたのも何かの縁。飲み水を彼に与えてやってくれ」


 トニーウッドは残り僅かとなっていた飲料水を、なんと見ず知らずの男へ分け与えようとしていた。


「それは大変だわ。ぜひそうしましょう!」


 家の飲料水もほとんどないであろうに、妻は嫌がるそぶりも見せずに肯定した。トニーウッドの妻は惜しがる事もなく、行き倒れていた男に飲み水を飲ませる。行き倒れの男は短く「うっ」と唸りながら飲み水を飲んだ。

 行き倒れていた黒い鎧の男は目を覚ます。


「ここはいったい・・・・・・」

「あんた。目を覚まされたかい。道中で倒れておったで、拾って水を飲ませただけだ」


 トニーウッドは応える。干ばつひどく水がない今、飲料水を分け与えるのがどれほど困難なことかは誰の目にも明らかだ。黒い鎧の男もその事を気にした。


「・・・・・・貴重な水をすまない。助かった。ありがとう」

「良いってことさね。ここで水を惜しんであんたを死なせたら、子供らに胸を張って生きられなくなる。そんなことだけはごめんさね」


 そう言うとトニーウッドははははと笑った。それは強がりの笑いだ。行き倒れていた男に気を遣わせまいと笑って見せたのだ。

 黒い鎧の男は起き上がる。


「世話になった。俺の名はセヴァン。わけあって旅をしている。飲料水が底をつき、人の集落にたどり着く前に力尽きた。あなたの助けがなければ終わっていただろう」


 セヴァンはそう言うと深々とトニーウッドに礼をした。


「良いって事よ。しかし、あんたも難儀なのさね。こんなご時勢に旅をしているとは」

「・・・・・・・・・・・・」


 セヴァンは言葉を返せなかった。しかし、彼は帰る場所も無い。旅をするより他ないのであった。


「しかし困ったのはこの干ばつだよ。畑の作物はことごとく枯れ果てて、もはや妻や子供らに食わせるものもありはしない。俺達はもう飢えて死ぬのを待つ身に過ぎぬ。神の慈悲を乞うばかり」

「・・・・・・・・・・・・」

「そんなことよりあんた。今日はうちに泊まっていくといい。余所の話を子供達に聞かせてやってもらいたい。どこにも連れて行けない俺に変わって、物珍しい話をしてもらいたいんだ」


 トニーウッドは寂しそうに笑った。できる事ならば子供達をいろんなところへ連れて行ってあげたかったのだろう。しかし無念にもそれはできそうには無いのだ。


「・・・・・・・・・・・・わかった。俺の話でよければ」


 セヴァンは快く引き受けた。彼は話し上手と言うわけではなかったが、冒険譚には事欠かなかった。普通の魔物退治の話を語って聞かせればいい。間違っても外道退治の凄惨にして血なまぐさいだけの話は出来そうにも無いが。

 その日、とある村の百姓の家ではささやかな宴が開かれた。しかし、セヴァンは気がついた。明日食べる物も無いので、せめてもと彼らは思い出に残るような晩餐を開こうとしているのだ。

 セヴァンはトニーウッドの子供達に武勇伝を語って聞かせた。そして得意のナイフ投げを披露した。子供達はセヴァンの話に夢中になり、次から次へと話を聞きたがった。

 やがて夜も遅くなり、子供達は寝静まる。それからは大人達の時間となった。


「そうですか・・・・・・どこもこんな有様ですか。それでは余所の集落に助けを請うても無駄と言う話ですな」


 トニーウッドはセヴァンの話を聞いて落胆した。他の土地なら大丈夫なのでは無いかと期待していたのだが、その期待も微塵に砕かれたのだ。


「希望を持たせられる話が出来ずにすまない」


 セヴァンは心底申し訳なさそうにした。


「良いって事さ。あんたに当たっても仕方がない。それもこれも雨さえ降ってくれれば皆が助かるというのに・・・・・・」


 トニーウッドは無念そうに呟いた。


「・・・・・・・・・・・・」


 セヴァンは押し黙った。彼は目の前の男に掛ける言葉も思い浮かばなかった。


「そんなことより今日はそろそろ休みましょうや。明日は明日の風が吹く。もしかしたら風向きが変わってくれるかもしれませんで・・・・・・」


 トニーウッドは絶望のどん底で現実逃避の希望を語る。そうして彼らも眠りについていった。

 明かりの消えた部屋で、セヴァンは静かに暗闇を見つめ続けた。そしてあることを閃くのだった。



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