表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

暴君の謀略・上

 あるところに一人の王がいた。彼には優れた武具の収集癖があった。名をヴィオスクロイドと言う。王そのものが法である国家において、彼に手の入らぬ武具はなかったと言えよう。ヴィオスクロイドが集めた武具は、家臣に下賜されることもなく宝物庫の中で眠り続ける。そんなヴィオスクロイド自身も剣の腕は確かであり、近隣諸国からは剣客王と呼ばれていた。

 そんなヴィオスクロイドの国にまことしやかな噂が流れる。いわく、伝説の魔剣を持った男が国に入ったと。ヴィオスクロイドはその噂を聞き、さっそく持ち主を探す事にした。

 玉座に座るヴィオスクロイドと、王に仕える家臣たちが居並ぶ。


「我の耳に伝説の魔剣の噂が入った。その魔剣がどれほどのものなのか、この目で見てみたい」


 ヴィオスクロイドは早速興味を示した。それは当然のこと。彼ならば必ずや魔剣を求めるであろう事も。家臣達は王に目をつけられた魔剣の主に同情するのだった。


「王よ。進言いたします」


 一人の男がすっと前に出た。彼はヴィオスクロイドの配下の中ではまだ若いが、新進気鋭の男だった。


「セラフッドか。なんだ、申せ」


 ヴィオスクロイドはこれまで自らが武具を求める時に意見してきた家臣がいなかったため、具申してきたセラフッドに興味を持った。セラフッドは有能な人物だった。独自の調査網を持ち、確かな情報からあらゆる策謀をめぐらせる智将なのだ。


「伝説の魔剣は傾国の魔剣。かのラストヴィン王国を崩壊に導いた魔剣でございます。その魔剣の持ち主は必ずや不幸になるとも言われております。かような災いもたらす武具など、王がご興味を持つほどのものではございますまい」


 セラフッドは知りえた情報で王に意見をした。それは魔剣には関わらない方が良いと暗に告げている。


「なればこそ興味があるではないか! 我ほどの者をも不幸に出来るような一物であるのか否かを。これまでの持ち主は魔剣にふさわしい者ではなかったと言うだけではないか?」


 ヴィオスクロイドはせせら笑った。自分が魔剣の魔力に負けるなどとは微塵も思っていないのだ。


「あの魔剣はまことに国を滅ぼしかねない逸品。いや、国どころか世界をも滅ぼしかねないと言えましょう。なにせ、あの魔剣ヴォルテクスブレイドは古の魔神アブダールを封じていると聞きます。かの魔神が魔剣から解放されたならば、間違いなく世界の脅威となりましょう」


 セラフッドの情報網は確かなものだ。それは異国の地、あるいは秘境の異教徒の中にまで及ぶ。


「ふっははは! セラフッドよ。ならばますますどこの馬の骨とも知れぬ男に預けておくわけにはいくまい。我が宝物庫にて愛でてくれよう。俄然興味を持った。魔剣ヴォルテクスブレイドの持ち主を連れてまいれ。魔剣にふさわしい男か否か、見極めてくれる! ふさわしくなければ、魔剣は我が財宝となってもらおうぞ」


 ヴィオスクロイドはセラフッドの意見を一笑に伏した。


「では一つ条件がございます」


 セラフッドはかしこまって申し出た。しかし、言っている内容は王に対しては無礼に当たるような内容。たちどころに他の臣下達がざわめきだした。


「セラフッド卿。王のなさる事に条件をつけるとは、大変無礼ではないのかね?」


 一番年老いた臣下がセラフッドを諫めた。しかし、ヴィオスクロイドはそれを笑う。


「世は構わんぞ。なんだ。その条件とは?」


 ヴィオスクロイドは尋ね返す。


「その魔剣、暴力に任せて力づくで奪う事はなきよう、と」


 セラフッドは意外な条件を王に突きつけた。


「ほう。それはなにゆえだ」


 ヴィオスクロイドの目が細くなった。それはセラフッドを信頼しているがゆえに、彼の発言には裏があると読んだためだ。


「かの魔剣。歴史上力づくで手にした者は必ずや滅んでおります。なにより今あの魔剣を収めている鞘。あれは持ち主に害意、殺意、悪意が向けられると、持ち主に知らせる神聖なる物。王の意思が相手に気取られる恐れがあります」

「おうおうおう! 聖戦士王ゼラルドが持っていたと言う聖剣の鞘か! あれも欲しいのう! なんとも喉から手が出るようなアーティファクトではないか」


 ヴィオスクロイドが唸った。


「その鞘が問題なのです。持ち主の抗魔力を高め、身体機能を増強させる力がある。今の持ち主である男は元々人外並の膂力を持った男。そんな彼の身体機能が飛躍的に増大されているのです。人の姿をしたジャイアントだと認識していただければ幸いです」

「むぅ。ジャイアントか・・・・・・。討伐には軍隊を差し向ける必要があるレベルであるかも知れぬという事であるな?」

「はっ・・・・・・それはまこと確かなこと。一国の軍隊を持ってようやく倒せるのではないかという男にございます」

「ふぅむ。なればヴォルテクスブレイドの持ち主は相応の使い手と見て取れという事か。あいわかった。セラフッドよ、良くぞ我に進言した。大事は心得た」

「はっ・・・・・・」


 セラフッドは敬意を表した一礼を主に差し向けると、すっと身を引いて行った。


「なれば早速魔剣の主を客人として連れてまいれ。我が目で見定めてくれよう」


 王が命令を下した。兵士達は敬礼をしてその場を去っていく。またしても一難がセヴァンを襲おうとしていた。



 その頃セヴァンはとある国の城下町を訪れていた。そこは活気ある街だった。とくに何かの目的があって訪れたわけでは無い。ただ、自分の妻子を助けられるような聖職者を探していた。もしかしたら魔剣の力を超えた力を持つ者がいて、亡霊となった妻子を天に送り届けてくれるかもしれないと思っての旅だった。とはいえ、旅をする以上は路銀が必要となる。日々の糧を得るために冒険者ギルドを訪れていた。

 その国は兵士達の技量も熟練されていて、魔物の討伐は頻繁に行われていた。したがって魔物討伐の依頼は少なかった。それでもないわけではないのは、残ったのがよほど危険な依頼だという事だ。巨人族や竜族を相手にするような命がけのクエストしか残ってはいない。そんな危険に挑む冒険者はいない。それはセヴァンも同じだ。


「・・・・・・・・・・・・ちっ」


 セヴァンはクエストボードを見て舌打ちした。ろくな依頼がないのだ。それは国内の治安がよい証拠でもあるのだが、冒険者達には食いっぱぐれるということでしかない。野盗すら出ないのだ。キャラバンの護衛すらも無い。遺跡の類も国家の調査が及んでいる為、ほとんどが荒らされた後のようだ。まったくまともな依頼がない。薬草や鉱物採取の類くらいしかないのだ。

 その冒険者ギルドには活気がなかった。人はいるがまばらであり、あまり実戦経験を積んだ事がなさそうな若い冒険者しかいない。ベテラン冒険者はこの国を避けて通るのだ。

 仕方がないのでセヴァンは冒険者ギルドを後にした。そして酒場へと向かおうとする。その時に城からの使いの兵士達と行き逢った。


「そこの冒険者、またれい!」


 兵士がセヴァンへ声をかけた。


「・・・・・・・・・・・・?」


 セヴァンは怪訝な表情をする。兵士に声をかけられる覚えはなかった。


「お主は元ラストヴィン王国の第十三聖戦士団、団長のセヴァン殿と御見受けする」


 兵士がセヴァンの身の上を口にした。セヴァンはなにやら面倒ごとが来そうだと構える。


「いかにも」


 セヴァンは短く兵士に返答した。


「ヴィオスクロイド王がお主を城に御招きである。ぜひとも来て頂きたく」


 それは招待。しかし、一般の者が王の招待を断るわけにはいかない。つまりこれは命令なのだ。そのことは国に仕えていたセヴァンにも十分に理解できた。


「・・・・・・承知した」


 セヴァンは相手の招きに乗った。乗らずば国仕えの人間として招かれた以上は外交問題にもなるような話だ。もっともセヴァンの祖国はすでに滅亡しているが。セヴァンは穏便に済ませたかったのだ。面倒ごとはごめんなのだ。ならば王の招きに乗るより他はなかった。問題はその王の目的は何なのかであるが、それもセヴァンには心当たりがある。この国の王は剣客王と呼ばれている武具の収集家。魔剣ヴォルテクスブレイドに興味を示さないわけが無いのだ。セヴァンもその噂は聞き及んでいたが、まさか自分を城に招くとは思ってもいなかったので驚いていた。だが、セヴァンには目的があったので、賢君とも名高い王の国を訪れたのは意図的なものだった。つまり、これはセヴァンにはチャンスでもあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ