邪神崇拝の教団・下
やがて一週間後。メッサーが待ち焦がれた日がやってくる。ラストヴィン王国の国章の刻まれたぼろぼろのマントを着た男がやってきたのだ。背中には大剣も背負っている。殺しのターゲットの男に間違いなかった。相手は受付で依頼達成の報酬を受け取っていた。どうやら次の依頼をその場で受けようとしている。どうやら洞窟のスライム退治を受けようとしているようだ。メッサーはしめたと思った。彼は受付で仕事依頼を受けた聖戦士へと話しかけた。
「もしもし、あなたは名のある戦士と御見受けします。スライム退治を受けたようですが、スライムを倒すには魔法が有効。ならばわたくしのお力をお貸しいたしましょうか?」
メッサーはクエストの手助けをするていで聖戦士に話しかけていた。
「・・・・・・・・・・・・」
聖戦士はぎろりと睨んだ。
「あぁ、協力を申し出ておりますが、いかがでしょうか?」
「あぁ、いいだろう。協力してもらおう」
聖戦士は快諾した。どうやらただのパーティの申し出と思ったようだ。
「ご承諾頂き感謝いたします。わたくし、魔法の心得はございますのでご安心くださいな・・・・・・」
メッサーはにやりと笑った。
「スライムの出た洞窟は西の街道の先にある。ついてきてくれ」
聖戦士はそう言うと率先して歩き出した。メッサーを疑うことなくただの魔法使いと扱っている。冒険者ギルドでは見ず知らずの者達がパーティを組むのは珍しくもなんとも無いのだ。
メッサーと聖戦士は早速洞窟を目指して街を出る。そして森へ差し掛かった時にメッサーは動いた。
「時に、聖戦士殿。対魔法の供えについては万全ですかな?」
メッサーが聖戦士に尋ねる。
「対魔法? スライム退治には必要なかろう。まったく備えはしていない」
聖戦士は問われている内容の意図がわからないままに返答を返す。それを聞いたメッサーはにたりと笑った。
「あぁ、そうですか。それはご苦労。では、エクスプロード」
メッサーは無造作に爆炎魔法を聖戦士に放った。放たれた光弾は聖戦士に着弾し、爆炎を上げて森ごと吹き飛ばした。
あっという間に消し飛んだ聖戦士。全てが終わったかに思えたその時、
「貴様! 一体今何をした!」
背後から冒険者のパーティが姿を現したのだった。
「おや、これは・・・・・・つけられておりましたか」
メッサーは予定外の出来事に驚いたが、相手が冒険者パーティ一つ程度ならば、彼らも消し飛ばせば良いとすぐに気を取り直した。
「胡散臭い動きをしていたが、やはりお前の正体は妖魔だったか! さてはおまえ、子供を誘拐していた妖魔の仲間だな!」
冒険者ギルドでメッサーに疑いの目を向けていた盗賊だった。彼は一週間の間にメッサーが用まである事を見抜いていた。そしてその動きを観察していたのだ。
「いかにも。わたしがそうだ。良くぞ見抜いた素晴らしい。そしてさようなら、エクスプロード!」
ふたたび放たれる光弾。それを見た冒険者パーティの魔法使いが前に出る。
「いけません! アンチマジックシールド!」
冒険者パーティの魔法使いらしき男が慌てて魔法のバリアを張った。そのバリアにエクスプロードの光弾が着弾する。大爆発。そして爆風はあっという間に魔法使いのバリアを消し飛ばした。爆風に吹き飛ばされる冒険者達。彼らは一応バリアに守られた為に即死は免れたようだ。だが、立ち上がれずに大怪我を負って地面に横たわりうめき声を上げている。
「ふむ。手加減しすぎましたか。まぁよい。わたしはヴォルテクスブレイドに用があるだけだ。回収してさっさと帰るとしますかね」
メッサーは先ほど吹き飛ばした聖戦士の亡骸の辺りを探す。飛び散った肉片。腕や脚。そして、折れた大剣。その大剣は魔剣ではなくただの剣だった。
「おや・・・・・・これは偽者? いったいこれはどういうことですかな」
メッサーは様子がおかしい事に気が付いて、倒れていた盗賊の首を締め上げて尋ねた。
「ぐっ・・・・・・お前がセヴァンさんを探していたようだから、罠をかけさせてもらったまでだ・・・・・・薄汚い妖魔めが!」
盗賊の男は首を締め上げられながら言葉を吐き出した。
「ふむ。聖戦士はセヴァンと言う名なのですか。それはともかく、まずはあなた方には死んでいただきましょう」
メッサーは盗賊の首を絞める腕に力をこめようとした。
「さっきから俺の名を呼んで、一体何のようだ?」
場に響き渡る男の声。偶然通りかかったセヴァンだった。仕事帰りにたまたま争いを聞きつけたようだ。
「あ、あんたは英雄セヴァン・・・・・・」
盗賊の男は声を絞り出した。セヴァンは子供を誘拐していた道化師を倒した為、いまや町では英雄扱いとなっていたのだ。
メッサーは横のつながりを軽視していたが、セヴァンは横のつながりで本人も知らぬうちに協力を得ていたのである。
メッサーは盗賊の首を絞めていた手をはなした。盗賊がドサリと倒れる。
「あなたがそうなのですね。いやいや、まったく余計な手間を取らされてしまいましたな」
メッサーは炎神のロッドを構えた。
「・・・・・・・・・・・・」
セヴァンは低く体勢を構えた。
「さぁ、おいきなさい。エクスプロード!」
メッサーから放たれる爆発する光弾。それをセヴァンはすばやい身のこなしで避けた。地面に着弾する。爆裂する魔法が地面に大穴を空け、森の木々をなぎ倒す。
「・・・・・・・・・・・・!」
セヴァンは即座に相手の危険性を見抜き、一気にメッサーとの距離を縮めた。邪悪な魔法使いの眼前に迫る!
「くっ、こうも近くては! ヘルズフレイムっ!」
メッサーは至近距離で自らの爆炎魔法に巻き込まれるのを恐れ、通常の火炎魔法を放った。メッサーの前に現われる炎の壁がセヴァンを飲み込んだ。高温の炎が全てを焼き尽くす。
その刹那。セヴァンの背中の鞘が光を放った。セヴァンの周りの魔法を打ち消したのだ。炎をかき消してセヴァンが飛び出し、メッサーに迫った!
「ヌゥン!」
セヴァンの剛拳が唸る! メッサーの胸板に叩き込まれる鉄拳。ごきゃりと言う音とともにメッサーは吹き飛んだ。
「ぐっはぁっ!」
メッサーは大きな木に叩きつけられ、彼の手から炎神のロッドが手放されて地面を転がる。メッサーは完全に勝機を失った。メッサーが木からずるりと崩れ落ちた。
あのロッドがあるからメッサーは危険だった。それがなければ脅威度は下がる。セヴァンはそう判断した。
「・・・・・・・・・・・・」
セヴァンはメッサーには目もくれずに重傷を負った冒険者達へと近寄った。そして治癒魔法を掛ける。彼らの怪我がひどすぎて、このままでは命を落とすかもしれなかったのだ。冒険者の怪我に手を当て、セヴァンは神に祈った。温かき光が冒険者達を包んだ。瞬く間に傷は癒されていく。
「たすかりました。ありがとう、英雄セヴァンよ!」
盗賊の男は礼を言った。
「一人は助けれらなかったが・・・・・・」
セヴァンはそう言うと聖戦士の格好を真似ていた男の躯を見た。爆散した死体が転がっている。すでに死した者はセヴァンといえどもどうする事は出来なかった。
「彼は・・・・・・止むを得ません。おとり役をやってもらいましたが、まさかあの邪悪な魔法使いがこうも無法に虐殺するとは・・・・・・」
盗賊は無念そうに肩を落とした。
「そこまでだ。ラストヴィンの聖戦士!」
それはメッサーの声。メッサーは立ち上がっていた。そして爆炎魔法の詠唱をしていたようだ。炎神のロッドがなくとも、きちんと詠唱をすれば強大な魔法は放てる。
「・・・・・・・・・・・・ちっ」
セヴァンは咄嗟に冒険者達の立っていた場所から離れて相手をひきつけた。メッサーに魔法を放たれても巻き込まないようにするためだ。
「わたしのすべての魔法力を込めた魔法だ。受けろ、エクスプロード!」
メッサーはすべての力をこめた全力の光弾を放った。それはこれまでの魔法よりも遥かに巨大な光弾だった。横転してかわしても、その爆風に巻き込まれることだろう。
セヴァンは、よけなかった。ヴォルテクスブレイドを抜剣していた。そしてその魔剣で光弾を切り裂いた!
光弾は真っ二つに切られて遥か彼方に吹っ飛んで行った。そして着弾して強大な爆風を巻き起す。セヴァンは無傷だった。セヴァンは一気にメッサーとの間合いを詰めた。
「ヌゥゥゥン!」
セヴァンはヴォルテクスブレイドを突き出す。メッサーの肉体は魔剣に貫かれた。その瞬間に恐るべき事が起こった。魔剣からおびただしい霊魂の腕が伸びだした。そしてメッサーの体を掴んだ。
「がはっ! これはいったい・・・・・・」
メッサーは己の魂を掴まれていることに気が付いた。これは魂をも束縛する魔剣の力か。それとも地獄へ引き込もうという魔剣の犠牲者の怨念か。後天的に身につけた魔剣の特性。
ぎゅるぎゅると霊魂の渦がメッサーを飲み込んでいく。そして魔剣へと輪を描いて注ぎ込まれて行った。
魔剣は嵐を呼び起こし始める。辺りに暗雲が立ち込める。そして魔剣から放たれる霊魂達があたりを彷徨い始めた。霊達を魔剣の力が支配する。あらゆる苦痛を持って霊魂達を束縛し、恨みつらみを抱かせるのだ。これが魔剣の魔剣たるゆえんだった。
「・・・・・・・・・・・・許せ、カイネ、アリッサ。お前達に苦痛を与えるような真似をしてしまって」
セヴァンは冷静に魔剣を鞘に収める。するととたんに嵐は収まり、飛び散りだしていた霊魂達は魔剣へと吸い込まれていった。
後にはメッサーの死体も残らない。彼もまた魔剣を形作る怨霊の一つとなったのだ。
「英雄セヴァンよ、今のは一体・・・・・・」
冒険者の盗賊がおそるおそるセヴァンへと話しかけた。
「なぁに、たいした問題じゃない。気にするな。やつは地獄へ落ちた。いや、地獄へ落ちたほうがまだましかもしれんがな」
メッサーは魔剣の力で滅んだ。かくしてセヴァンは窮地を免れた。他の冒険者の手助けも受けながら。




