表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/26

狂乱の道化師と真夜中の演奏・下

「おい、あんたはまだ勝負をやっちゃいねぇな」


 客の一人がそう呟いた。彼が語りかけているのは黒き鎧を着た男。セヴァンである。


「・・・・・・・・・・・・」


 セヴァンは面倒くさそうに男を見た。彼は茶番のごときこのような勝負事には興味はなかったのである。最初の一投で道化師の実力は知れていた。他の連中が負けたのは当然なのだ。


「おい、ご大層な魔剣を背負った男。お前の実力はどうなんだ? あんな道化師にいい気にさせたままでいいのかよ?」


 客の一人がセヴァンをけしかけようとする。


「・・・・・・はぁ」


 セヴァンはため息をついた。そんな勝負事など心底どうでもいいのだ。彼は静かに酒を飲んでいたかった。


「お前、見せ掛けだけのぼんくらかなにかかよ!」


 別の客もセヴァンをけしかけようとする。自分達だけが勝負で負けたのがくやしいのだ。

 道化師はこれ以上の勝負は必要なかった。それでも最後に一勝負しておこうかと思案した。


「他の皆さまはすでに負けられました。あなたも恥をかくだけになるくらいならば、勝負から降りようとそういうわけでございましょう? よろしいと思いますよ」


 道化師はかるくセヴァンを挑発する。どうせこいつも大した事は無いと高をくくっているのだ。

 セヴァンは道化師をぎろりと睨んだ。そして的に背を向けたまま、腕を後ろへと振るった。・・・・・・すとんと言う音。的の中央にナイフが刺さっている。


「おぉ・・・・・・」


 周囲の観客達がどよめきを洩らした。これまでの挑戦者達とはうって変わっての実力者の登場に驚いている。

 これには流石の道化師も驚いた。


「・・・・・・よろしい。ではわたくしも背を向けて投擲いたしますか。どうだっ!」


 道化師もセヴァンを真似て的に背を向けたままナイフを投擲する。・・・・・・すとっと言う音。ナイフは的の中央をやや外れて突き刺さった。


「魔剣の男が勝ったぞ!」


 酒場の客たちが歓声を上げた。ようやく道化師に一勝した男が現われたのだ。


「・・・・・・いいでしょう。あなたの勝ちです。銀貨五枚を払いましょう」


 道化師は銀貨五枚をセヴァンへ差し出し、そしてその場を去って行った。

 観衆はいけ好かない道化師の鼻を明かせたことに満足し、それぞれの席へと戻って行った。


「・・・・・・やれやれだ」


 セヴァンはそう呟くと、残っていた酒をぐいっと飲み干すのだった。



 夜。誰もが寝静まった時間帯。街の中には明かりの一切がない。出歩く者もいない。

 ・・・・・・どこか遠くから聞こえてくる笛の音。深夜であるのに笛を吹いている者がいるというのか。

 異変は至るところで起こっていた。寝ていたはずの子供達が、笛の音を聞いて目を覚ます。そして家から出て行った。親が異変に気が付かないのかと言うと、親のほうはなぜかぐっすり眠り込んでいた。

 寝巻き姿の子供達が夜の街をうつろな目をして徘徊している。そしてみな一様に笛の音が聞こえる方向へとふらふらと歩いていくのだった。


 笛の音が聞こえ始めた頃、宿屋で寝ていたセヴァンのところでも異変があった。壁に掛けていた魔剣がガタガタと揺れ始めたのだ。正確には魔剣ではなく鞘が動いたのであるが。

 その様子にセヴァンが目を覚ます。そして魔剣を手に取った。鞘が揺れる時は持ち主に敵意悪意害意を向けるものがいる危機を知らせるときだからだ。そして外の笛の音に気がつき、深夜の街中を子供達が歩いていることに気がついた。


「・・・・・・・・・・・・ちっ」


 セヴァンは異変を感じて鎧を着込み、魔剣を背負って宿を出た。

 外を子供達が徘徊している。誰も彼もがセヴァンを気に止めることなく、焦点の定まらぬ目をしていて意識が混濁しているのは間違いなかった。

 子供達は何者かに操られている。セヴァンは直感的にそう感じた。笛の音色に聞き入ると思わず眠りそうになる。どうやら二種類の魔力を込めた魔曲のようだった。セヴァンは笛の音が聞こえてくる方角を目指した。

 そうすると街から出た北側へと向かう道。その道の真ん中に道化師はいた。ピエロの格好。そして血のような涙を流したかのようなピエロの面。酒場で出会った男の面とはデザインが異なる。別人だろうか。

 ピエロは鎌を笛のように扱い音色を出していた。セヴァンが近づいてくるのを見てピエロは演奏をやめた。


「おや。私の魔曲を聴いて眠らぬ者がいるとは。抗魔力はなかなかのようだ」

「・・・・・・さてはお前が子供の連続誘拐魔か」


 セヴァンは身構えた。ピエロからは人ならざる者の気配がするのだ。セヴァンの見ている前でピエロがふわりと宙に舞った。


「そんな事はどうでもよろしいでしょう。私の仕事の邪魔をしないでいただけるかな?」


 ピエロは再び鎌を笛にして演奏を行う。曲目が変わったようだ。・・・・・・子供達がセヴァンへと襲いかかる!


「・・・・・・・・・・・・っ!」


 セヴァンはとっさに子供達をよけた。相手はただの子供とは思えないような身のこなしで殴りかかる!

 がつん。子供の拳がセヴァンの鎧を殴った。それはとてつもない衝撃。とても子供のものとは思えない力。まるでオーガに殴られたかのようだった。・・・・・・だが、子供の拳もただではすんでいない。血まみれになっていた。拳が砕けたようだ。


「これは・・・・・・」


 セヴァンは驚愕した。子供達はその身体能力を強化されはしても、強度は人間の子供そのままなのである。このまま鎧を着込んだセヴァンを殴る蹴るなどした場合、子供達は骨折してしまうだろう。


「贄に使う子供ですから。彼らが怪我をしたところで私は痛くもかゆくもございません!」


 ピエロはくっくっくと笑う。


「貴様、さては妖魔のたぐいか。外道めが・・・・・・」


 セヴァンはぎりりと歯ぎしりしたが、子供達の攻撃をよけるだけで精一杯だった。


「さぁて、子供達。邪魔なこの男をくびり殺して差し上げなさいな」


 ピエロが再び演奏を始めた。笛の音が鳴り響く。その曲に合わせて子供達がセヴァンへと飛びかかる。


「・・・・・・くっ」


 セヴァンの絶体絶命の危機! 反撃もできず、ただひたすら子供達の攻撃をかわすだけに専念する。このままでは確実にやられてしまうだろう。

 その時、どこからともなくフルートの音色が聞こえてきた。魔曲との二つの音が重なり合い、魔曲はその力を失う。フルートの演奏が魔曲を阻害したようだ。


「なんだ、なに者ですか!」


 ピエロが怒鳴り声を上げると、街の方角から一人の男がフルートを演奏しながら歩いてきた。それは酒場で冒険者達とナイフ投げで競い合った道化師だった。

 音と音の反作用により完全に魔曲の効果は失われ、子供達は糸が切れたマリオネットのようにその場に倒れ込んだ。

 その瞬間にセヴァンが勝機を確信する。彼は手にしていた短剣を投擲した! 放たれた刃は妖魔のピエロの眉間に突き刺さる。


「がはっ!」


 ピエロはそう言葉をひり出すと地面へと真っ逆さまに墜落していった。そしてどさりと地面へ落ちる。そのまま物言わぬ骸へとなった。

 道化師がフルートの演奏をやめる。


「また会ったな。道化師」


 セヴァンは道化師の男に声をかける。そして倒れていた子供達の手足のために治癒魔法を使い出した。


「危ういところでしたね。しかし間に合ってよかった。子供達の笑顔を壊す輩は許せませんから」

「同感だ」

「かような者のおかげでわたくし達は路上で芸ができなくなっていた。まったく、退治してくれたあなたには感謝いたしますよ。それにしても相変わらずのすばらしい投擲でした」


 道化師は深々とお礼をした。それは芸の最中に行われるような芝居がかった仰々しい一礼ではないただの一礼。


「あんたは投擲術なんかよりも、笛の演奏をしている方がよほどお似合いだぜ。そら、おひねりだ」


 セヴァンはそう言うと道化師へと銀貨五枚を渡した。それは彼がナイフの投擲勝負で道化師から勝ち得た時にもらった金だった。


「・・・・・・あぁ、ようやく人を幸せにして対価を得られましたね。芸人冥利に尽きますよ」


 道化師は仮面の下ではははと笑う。心から笑っているのだろう。こうして妖魔がとある街を襲った事件は二人の働きで解決するのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ