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愛の決闘者・下

 そうこうしているうちに、あっという間に決闘の日はやってきた。

 街は最高潮の盛り上がりを見せている。誰も彼もがラルフとオーランドについてを語り合う。そして彼らの恋の行方をささやきあった。

 決闘の場となるのは街の広場。そこには街中の人々が集まっていた。野次馬達である。だが、彼らは同時に公平な証人となる。行われる決闘の正当性を証明する存在でもあるのだ。だから人が集まれば集まるほどよい。それは一つの祭りのような様相となっていた。

 屋台が出店を開き、どちらが勝つのかと賭け事を始める輩まで出始めた。娯楽に飢えた町での数少ないイベントだったのだ。

 ラルフは一本の剣を携えて広場で待ち構えた。観衆に混じってセーラが見守っていた。二人の運命を引っ掻き回した一ヶ月は、彼らにとって耐え難いものであったに違いない。

 やがて、その耐え難きを与えた張本人が現われた。


「よく逃げ出さなかったな、ラルフ!」


 オーランドが余裕を見せる。


「それはこちらの台詞だ。よく姿を現したな。親の後光のオーランド」

「なにをっ! 言わせておけば調子に乗りやがって!」


 痛いところを突かれたオーランドがいきり立った。


「それよりオーランド。剣も持たずにどうするつもりだ?」


 ラルフはオーランドが剣を持っていないことに気が付いた。

 オーランドが不敵に笑いだす。


「ふっふっふ! どうして高貴な俺が剣などを持ち、振るわねばならんのだ! 出てこい!」


 オーランドがぱちんと指を鳴らした。そうすると観衆の中から一人の男が姿を現す。それは戦士だった。


「? どういうつもりだ、オーランド」


 ラルフは嫌な予感がするのを感じていた。


「どうもこうもない。俺が金で雇った傭兵だ。男は金を持っていてなんぼなんだよ! 俺はこの街の名士の息子。なぜにお前ごときと対等に戦わねばならんのか! お前の相手はこの傭兵で十分だ!」


 オーランドは金で物を言わせて、傭兵をラルフにけしかけるつもりなのだ。


「卑怯な!」


 ざわめく観衆の中から声があがった。即座にオーランドは声の方角を睨んだ。


「今叫んだのは誰だ! 出てこい!」


 オーランドが恫喝する。叫んだ何者かはオーランドにひどい事をされるのを恐れて出てこなかった。観衆が黙った。権力で黙らされた。


「オーランド。決闘を受けた時は見上げたやつだと思いもしたが、見損なったぞ」


 ラルフは言葉を吐き捨てた。ここまで相手が卑劣なやつだとは思わなかったのだ。


「下賎な輩が吼えるではないか! 身の程知らずが!」


 オーランドはいきり散らしている。金の力といってもそれも親の金であろうに。何一つ彼から出たものは無いのだ。


「誰が相手であろうが、僕は決闘を受けよう」


 ラルフは静かに言い放った。その言葉を聞いて観衆が沸き立つ。ラルフが男を見せたのだ。


「強がるなよ、ラルフ! 剣も持った事のないお前が、どうして歴戦の勇士に勝てるつもりでいるのか!」


 オーランドはラルフを嘲笑した。


「オーランド。戦いとは勝てるか勝てないかではない。やるかやらないのかだ。神聖なる命のやり取りの場から逃げ出したお前は、ただの臆病な卑怯者に過ぎない」

「・・・・・・決闘では命を落とそうが、それも名誉ある死であったな。良かったじゃないか、ラルフ。お前の名誉ある死を悼んでやろう。おい、お前。さっさとあいつを黙らせろ」


 オーランドは傭兵に指示を出した。


「へっへっへ! 悪いなぼうや。世の中の厳しさと言うモノを味あわせちまってよ!」


 傭兵は下卑た笑いを浮かべた。


「傭兵よ。あなたにはこの戦いに名誉はあるのか? 金で雇われたのだろうが、仕事を選ばないのか?」


 ラルフは哀れんだ瞳を傭兵へと向けた。


「お前さんの命は金貨10枚なんだ。そんなご大層なものだから結構なのさ!」


 傭兵は剣をすらりと抜いた。


「なんと言う男だ。自らの名誉をそんなはした金で売るとは!」


 そう言うと、ラルフも剣を抜き放った。

 オーランドが安全な場所まで引き下がる。オーランドに近づきたくない観衆達が蜘蛛のこを散らすように彼から離れた。オーランドはとても周囲から嫌われているようだ。

 決闘で立会人を名乗り出た男がラルフと傭兵の間に立つ。


「ラルフ、相手は傭兵で本当に良いんだな?」


 立会人が最後の確認を行った。


「セーラとの未来をかけたこの決闘。たとえ相手が何者であろうが引き下がるつもりは、一切無い!」


 ラルフははっきりと言い切った。断言した。たとえ万に一つも勝ち目がなくとも尻尾を巻く気はないのだ。彼はその性根は英雄そのものだった。

だが、そんなラルフの窮地にセーラは涙を流した。ここまで絶望的な状況になるとは思ってもいなかったのだ。そして、駆け落ちしてしまうんだったと心から後悔していた。

立会人はラルフの覚悟を読み取って頷いた。


「それではこれより決闘を行う。勝利者はセーラを妻とする。この場にいる者がそれを公証しよう。公正なる神の徒として、勝利者にも敗者にも等しく名誉を。それでは両者構えて・・・・・・決闘始め!」


 立会人が決闘開始の合図を行った。

 ラルフは剣を構えて相手に向かって振り下ろした。ただひたすらに正面に相手を見据え、上段から剣を振り下ろす型の稽古しかしていない。やってきた努力を最大限に使った一撃を振るう。

 その剣は無情にも相手の剣で阻まれた。

 ラルフはそれでも懸命に何度も剣を振り上げては振り下ろそうとする。相手はそんな機械じみた攻撃が通じるような素人ではなかったのだが。

 一際甲高い音がして、ラルフの剣が傭兵の剣で弾き飛ばされた。それで勝負は付いた格好だ。


「おい、やれ!」


 オーランドは傭兵に止めを指すように促がす。一旦は止まった傭兵の剣が、大上段に構えられた。


「悪く思うなよ、ぼうや」


 にやけた傭兵が剣を振り下ろそうとする!

 その刹那。石つぶてがどこからとも無く飛んできて、傭兵の顔に当たり、彼は怯んだ。


「な、なんだ!」


 驚いたラルフが石の飛んできた方向を見ると、そこには不吉な色の鎧を纏った男が立っていた。セヴァンである。


「この決闘。俺がそこの青年に加勢しよう」


 セヴァンは静かに言い放った。


「な、なんだと! いいところで水を差すんじゃない! 失せろ!」


 オーランドが決闘に水を指されていらだち怒鳴る。


「この決闘は代理人が認められているのだろう。ならば俺が加勢しても問題なかろう」


 セヴァンはずいっと傭兵とラルフの間に体を割り込ませた。傭兵は思わず相手の雰囲気に圧されて後ずさる。

「そうだそうだ! 代理人を認めろ!」と、観衆達が大喝采を上げた。人々の心は今、一つにまとまっていた。


「ええい、観衆は黙っていろ!」


 オーランドは喚いた。だが観衆達は黙らなかった。「代理人を認めろ!」「代理人を認めろ!」と、観衆達は喚き散らす。


「なんなら俺は素手で決闘をしてもいいぜ。この条件ならいいだろう?」


 セヴァンは拳を突き出してにやりと笑ってそう言った。


「素手? それならお前が相手でも良かろう! 舞い上がった馬鹿が! おい、傭兵。奴を切り殺せ!」


 オーランドは愚かにもセヴァンの加勢を認めた。そして傭兵に指示を飛ばす。


「素手で俺の相手をするってぇ? なめやがってぇぇぇ!」


 傭兵の男は侮蔑されたと思ってセヴァンに斬りかかった!

 振り下ろされる剣を、セヴァンは剛拳で弾き飛ばす。そして、一撃粉砕。鉄拳制裁。

 傭兵の男はセヴァンの拳を受けて吹っ飛んだ。そして傭兵は気絶する。


「な、なんだとぉ!」


 オーランドは驚愕の声を上げた。


「さて。次はお前が決闘の場に立つ番だ」


 セヴァンはオーランドへ冷たく言い放った。そしてゆっくりと歩み寄る。


「ば、ばかな! おい、お前。何が望みだ! 金ならいくらでもやるぞ! 金貨100枚ならどうだ?」


 オーランドは慌ててセヴァンを買収しようとした。


「男は金を持っていてなんぼだったか・・・・・・」


 セヴァンはそう呟いた。それを聞いたオーランドは、「我が意を得たり!」と思い込んで思わず笑った。


「そ、そうだ。金こそ力だろう!」


 オーランドがその指にした煌びやかな指輪を見せびらかして語る。それを見たセヴァンは笑った。

 セヴァンがラルフを見る。


「俺はこの若者の人柄に惹かれて加勢した。人間は人徳があってなんぼだ」


 そう言うとセヴァンはその豪腕を振るう。そしてオーランドへの拳の鉄槌が叩き込まれる。


「ぶるぎゃあ!」


 殴られたオーランドは派手にぶっ飛んだ。頬への一撃で歯は折れて飛び散っている。彼はそのまま気絶した。


「勝利者、ラルフ。そしてその代理人!」


 立会人が高らかに叫んだ。人々がラルフに駆け寄る。セーラも駆けつけてラルフへと抱きついた。人々が二人を取りかこみ歓声を上げている。

 ラルフは黒い鎧を着た男へと礼を言おうと慌てて姿を探す。しかし、その姿は見えない。

 セヴァンはすでに観衆の輪の外へと出ていた。そして人々から祝福される二人を尻目に


「清き二人の行く手に祝福を」


 と、祈りの文句を告げて、聖印の形に指で印を切ってからその場を立ち去った。人々が彼の姿を探した時には、セヴァンは黒い風となって吹き抜けた後となっていた。


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